シャトル・フィクションズ 第三回 ディザスターVSシャトル 「THE DIG」「ヘルメス 落ちてくる地獄」
いろいろやっていたらほったらかしにしてしまった。申し訳ない。
フィクションの中のシャトルを紹介する企画の第3回はディザスター特集。宇宙からの危機と言えば宇宙人と隕石がツートップで、ガンマ線バーストやブラックホールはまだまだメジャーじゃない(だから何だ)だが、弱点を攻撃すればいい宇宙人と違って隕石はなかなか骨の折れる相手である。ニーヴン&パーネルの小説『悪魔のハンマー』ではアポロ&ソユーズミッションで彗星の観測を行ったが阻止は行わず、地上に降りた飛行士たちが文明再建のために奮闘する羽目になる。一方ショーン・コネリー主演の(トホホで有名な)映画『メテオ』では米ソが互いの核攻撃衛星で隕石を狙う作戦に出ていたが、シャトルの時代になると「シャトルならすぐ準備できて当然」と言わんばかりに隕石・彗星破壊任務が与えられるようになる。
一般的に有名なのは、地球へ落下してくる隕石をオヤジ達が核で破壊する『アルマゲドン』だろう。二機同時打ち上げとか月軌道通過とか燃料補給のためにわざわざ宇宙ステーションを回転させるとか小惑星上でガトリングガンとか精密機器なのに叩いて直すとか色々とネタ方面で有名だが、肝心のシャトルも色々超技術の固まりである空軍の謎実験機X-71(架空)。そんなものがあるなら月面基地とか小惑星有人探査とかできるよね。本来の開発目的は軍用臭いが。
それより先に公開されたのに、アルマゲドンの勢いに完全に陰に隠れてしまった感のある『ディープ・インパクト』。最初はジョージ・パル『地球最後の日』のリメイクとクラーク『神の鉄槌』の映画企画だったはずが紆余曲折あって普通の(?)落下ものになったそうだが、本作のメサイアは軌道上で組み立てられた核パルス推進*1システムの大型宇宙船。シャトルのパーツやエネルギアのパーツが散見されるが、なぜか司令船(着陸船でもある)部分がシャトルそのまま流用。軌道上でシャトルの機首(ミッドデッキ)を切断してくっつけたとは考えづらいので、地上で犠牲にされた奴がいたか博物館に展示されてた奴をぶった切ったか、大穴でブランの試作機あたりから引っぺがしてきたか。彗星はガスや多量の粒子を放出しているが、わざわざシャトルを使う必要性に関してはちょいと謎ではある。待てよ、もし彗星爆破がうまくいったとして、地球帰還はどうするんだろう。それを考慮してのシャトル流用なんだろうか。まぁこのへんは見た目重視ってところが妥当だろうけど*2。
スピルバーグ監修のポイント&クリックアドベンチャー『THE DIG』(1995)もシャトルで小惑星を爆破しに行く話だが、実は小惑星には人工物があり、パズルのかけらをはめたとたんに隕石は変形を始めて謎の惑星系に飛んでしまう…ということで『宇宙のランデヴー』のような冒険譚になる。内容としてはごくごくオーソドックスな「行きつくところまで行きついた文明の残した遺産」と、我らが若くて未熟な種族を巡る話だが、カートゥーン調でぬるぬる動くアニメが魅力的。宇宙なのは序盤だけで、あとは異星の遺跡を持ってきた普通のシャベルで掘りまくる(DIG)泥臭いアドベンチャーってのも珍しいかも。でも、ポイント&クリックの欠点であるアイテムの位置の分かりやすさはどうしてもある。あと、パズル要素は結構難物。ロボットのプログラム操作や骨のパズルは一発じゃ無理だろう。ありゃヒントなしじゃ無理っす。
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ちなみに『THE DIG』はノベライズの存在を先に知って読んでいたが、実物はSteamで初めて見た。ルーカスアーツのインディ・ジョーンズADVシリーズとともに5ドルでまとめて配信中(ただし英語のみ)。ローカライズ後の権利ってどうなったんだろうか。日本語版も出ているはずなのだが。
http://store.steampowered.com/app/6040/
今回もう一本取り上げるのはシャトル以前〜飛行開始時に出版されたジョン・バクスターの『ヘルメス 落ちてくる地獄』("THE HERMES FALL")。作者ジョン・バクスター(Wikipedia)はオーストラリア人作家でSFその他もろもろという感じだが、日本では本作ぐらいしか出ていないようだ。
(追記)
なんだ、はてなキーワードすらあるぐらい有名な人なのか!本職は伝記や映画評論。読書を愛して駆けずり回った半自伝なんてものまであるのか。これは探してみよう。
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スペースシャトル「エンタープライズ」が初飛行したことにより宇宙飛行は新時代を迎えようとしていた、ところが、エンタープライズの搭載機器がとらえた天体写真が大きな問題を引っ張り出してきた。それは小惑星「ヘルメス」の軌道異常。火星と地球の軌道を交差する軌道を持つヘルメスが地球、しかもアメリカに衝突する可能性があるというのだ。軍は「衛星だって落として見せる」と豪語していた弾道弾での迎撃を試みるが合えなく失敗。NASAは緊急時のために温存していた「ある宇宙船」を送り込もうとするのだが…
本作はシャトル計画開始時の期待と混乱を背景にしたいわゆる隕石落下カタストロフィ物。こういう作品でよく取り上げられるのは近日点が最も近い小惑星イカルスだが、本作で登場するヘルメスもその火星〜地球付近をめぐる特異な軌道が一時期天文学者の興味を引いたという。しかし本作、冒頭で思いっきり飛行開始直後のシャトルがプッシュされているのに、肝心の隕石破壊に向かう宇宙船はシャトルじゃなかったりする。本作ではサターンロケットが一機常に発射台で待機しており、シャトルに異常が発生した場合にアポロ改良型宇宙船「オルフェウス」で緊急支援物資をのせて救援に向かうことになっているのだ!第三段S-4Bと月着陸船に相当する部分はスカイラブとまではいかないが大型エンジン+燃料タンクへ置き換わり、シャトルを引っ張って大気圏に落っことすスペース・タグボート的なことが考案されていたらしい。うむむ。なかなか豪快だ。
アポロ計画前から言われていたことだが、多くの有人宇宙計画にはバックアップというものがない。「本来のシャトル」であればいつでも予備機が打ち上げられるのだろうが、そんな余裕は現在ではなかなかないだろう。ソ連版有人月探査計画はその点凝っていて、先に無人で月着陸船+ローバーを送り込んでおき、着陸地点の安全と予備の離陸可能機を確保しておくという計画が用意されていたのだが。
ヘルメス落下までの三日間を詰め込んだ「当時にとっての未来小説」として書かれたブロックバスターではあるのだが、詰め込んでるわりには人物が薄くてパッとしないし、いわゆる「落ちるまでが長い」話なので、被害の割にあっさりしすぎ。これじゃ『悪魔のハンマー』みたいな本職の隕石カタストロフィものに直接太刀打ちはできんだろう。翻訳は飛行開始前からのマニアックなNASA現地取材で知られた宇宙オタクのパイオニアとも言うべき存在・野田昌宏大元帥。元帥もあとがきではちょっと手厳しい意見が多く、とくにNASA関係者に感謝の言葉を述べてる癖に現地取材していないことについて一言が。宇宙への魅力を削ぐキャラまで出てくるので、この辺は許せなかったのだろうか。 ...むしろ元帥はマーティン・ケイディンの「シャトル防衛飛行隊」*3を訳した方がよかった気がしなくもない。こちらではあとがきで登場してべた褒め。これについてもいずれ触れよう。
(追記)
アルマゲドンの興奮冷めやらぬ?1998年にアメリカで出版され、おかげで登場人物同士でも「石油採掘屋でも打ち上げるかい?」などと皮肉を言いあうシーンまであるビル・ネイピア『天空の劫罰』は米露新冷戦が熱戦にうつろうかというさなかにもたらされた「ロシアが細工して北米大陸を直撃する小惑星がある"らしい"から何とかしろ」という難題に(旧)西側諸国のエキスパートが立ち向かう話だが、天文学者である著者がじっくりと観測網の現状から衝突時の被害推定までやってる中で、鍵を握るのはなんと地動説を支持し、異端尋問にかけられた神父の幻の著書!!! ただし別にヴァチカンやイルミナティやテンプル騎士団が出てくるわけでもなく、肝心のシャトルの出番も…わずか11ページで終了。しかもラストのオチがずっこける。こういうブロックバスターノベルって、「実は〜だった!」で180度ひっくり返さないといけない法則でもあるのかよ… クラーク一押しの文字に踊らされた(まああの時点で大分歳なわけで) 書かれた時期のせいか「日本のアマチュア観測網が有名だが、そんな連中にアメリカの運命を任せるわけにはいかない*4」「日本は小惑星ネレウスへのランデヴーを成功させてる*5」といった記述もある。 …やっぱり前半の面白さに比べると原書争奪やホワイトハウスの騒動がメインになる後半がイマイチである。もちっと頑張ってほしいぞう。
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今後数十年で隕石衝突に関する情報が出たとしたら実際にはどうなるだろう。現実世界だとアメリカや中国の弾道ミサイル迎撃システムの発展があるので、核を打ち上げるリスクとかも考慮して宇宙船を建造するなんて行われないかもしれない。ランデブー・ドッキング技術を取得している国も少ないし、早期発見で時間を稼いだとしてもやっぱり国際協力は簡単には行くまい。隕石1994XF04ユリシーズの落下がシリーズ中に大きく影響を与えている『エースコンバット』世界のように各国が迎撃手段を模索していろんなものを作った挙句に兵器転用でろくでもないことに…なんてのはあまりありがたくない話。というかあの世界、迎撃システムだけで何個作ってるんだ。
余談だが同シリーズ『エースコンバット5』にはアークバードという大気制動技術を持つ大型宇宙機が出てくる。これはSDI用のプラットフォームとして構想→隕石の直接迎撃ではなく軌道上に残った破片やデブリを掃除するための「平和利用目的」として建造→ユークの弾道ミサイル原潜に対抗して軍事転用→ベルカ残党が占領して特攻兵器に転用→心ある宇宙飛行士の手で軌道をずらされ、主人公たちの手で海に沈む という複雑な経路をたどっている。あれは個人的には「ガンダム・センチネル」に登場したモビルアーマー「ゾディ・アック」*6に近いように思うがどうか。ほら、「大気制動技術を本格的に取り入れた機動兵器」であり、「前の戦争で敗れた残党が破れかぶれで大気圏に突入させる決戦兵器」という共通点が… こじつけですかそうですか。現実世界ではそもそもシャトルで大気を使って特殊軌道に投入なんてシチュエーションそもそも無かったけど。軍事ミッションでしか必要なさそうだしなー。
次回はあまり普通じゃないシチュエーションを扱った作品を紹介予定。今度は間を置かないようにしなくては。まぁシャトル引退はまた延期されたそうなので時間はたっぷりある(こら
(ちゃあしう)
*1:すなわち、彗星破壊用だけでなく推進システムも核爆弾。きっと表に出てこないだけで口うるさい人は抗議してたりするかもしれない。
*2:『スピーシーズ2』なんて火星有人宇宙船にシャトルがそのままくっついてる。禁句:重量と燃料がもったいない
*3:各国要人が見守る国際協力のシャトル打ち上げが迫る中、原爆が盗み出される。これを阻止すべく立ち上がったのは、大戦機で興行を行うヒコーキマニア達のアクロバットチーム!という宇宙ものというより純粋にヒコーキマニア向けの作品。
*4:美星町をはじめとするスペースガード参加天文台+アマチュア天文家が多いことを示したものか。ラストを知るに、むしろ任せたほうが良かったような…
*5:これはたぶん工学実証機改め小惑星探査機『はやぶさ』のこと 当初の目標だった
*6:ティターンズ残党組織「ニューディサイズ」にネオジオンから「敵の敵は味方」とばかりに供与された機体。実は冷却システムに欠陥がある。