シャトル・フィクションズ 第九回 翼ある追随者たち 日の丸シャトル・HOPEの夢と現実 「北京原人 Who are you?」「ナイト・ダンサー」&おまけ
日の丸シャトル計画は実際のところ結構歴史が長い。シャトル計画がコロンビア飛行で順調にいき出したころには「ヤマト」と呼ばれる小型シャトルの試案が出ており、これは(当時の)次期国産ロケットH-IIの登場で一気に具体化、H-II ORBITAL PLANE略してHOPE(ホープ 希望の意味もあるダブルミーニング)が計画されることとなる。ただ有人でやるのか無人なのかはなんとも不明確だったりする。HOPEの有人化をしたところでメリットがどれだけあるのか・そもそも日本に自力有人宇宙飛行の覚悟があるのか無いのかよく分からないままHOPEは無人・宇宙ステーションにアメリカ経由で人材を派遣しながら有人技術を取得する というのが大勢の流れとなる。
自分が一番気に入ってる想像図 だが、この機首だと無人型とは「思われない」よね?
H-IIの記念すべき1号機で打ち上げられてデータを取得した再突入実験機OREX、空中で分離されて滑走路に自分で降りる自動着陸実験機ALFLEX、再突入後回収を目指したがフロートが分離し惜しくもロストした高速飛行実験機HYFLEXののち、実用機HOPEはいったん無期延期とし、試験機HOPE-Xを前倒しして飛行させようという事となって*1形状を改めた高速飛行実証HSFDが二種類実験された。最後には強度モデルが製造され、米シャトルのものに強度・重量ともに勝る新型タイルも開発された... が、おりからのH-II事故多発・コスト増大などがたたって「そんなことしてる段階じゃ無くね?」と開発が中止された。発展型としてデータを用いてロケットプレーンやスペースプレーンも開発検討されていたのだが、これらも基本宙に浮いてしまっている。
HOPE計画前後、ヤマトについてはこちらのサイトを参考にしたり
文部科学省:宇宙往還技術試験機(HOPE-X)プロジェクトの評価票の集計及び意見
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/reports/06050821/009.htm
宇宙往還技術試験機(HOPE-X)プロジェクトの成果について(文部科学省・JAXA)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/gijiroku/h17/suishin07/002.pdf
『宇宙開発史』→宇宙開発史んぶん/Blog版等。
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/5714/
ASTRONAUTIX:HOPE
http://www.friends-partners.org/partners/mwade/craft/hope.htm
『宙の会』HOPEのショートヒストリー
http://www.soranokai.jp/pages/HOPE_history.html
"HOPEは数回着陸して使命は終わるが、宇宙で不用な重い脚だけは5万回着陸にも耐えるだろう"という皮肉が今となってはきっつい*2 構造試験モデルが三鷹・旧NALに展示されているとのこと。
最初から素直に宇宙ステーション補給機HTV(こうのとり)を開発していたらまた話は違ったかも。というのも、H-IIロケットの構想段階で、無人で宇宙ステーションに物資を運ぶ使い捨て宇宙船のアイデアはあったのだ。HOPEはそれを「翼つけて 脚つけて 周りを囲んで再利用」とより複雑化させたものにすぎず、どう考えても運べる物資の量はHTV>>HOPEである。 ある意味根本的に間違ってた かもしれないのだが、今更そんなことを悔いてもはじまらないといえばそれまで。そして、そんな今になって、ほぼ同様の企画を実現したアメリカのX-37Bが飛んでるのはどんな皮肉なのやら。…ま、あれも軍事機密でなにしてるか良く分からんのですがね。
これが日本 もしくはクリスマス諸島で見られた時代はもはや平行世界のどこか。高速飛行実証の着陸動画は良く似てはいるのだが。
HSFDフェーズI 第三回飛行実験でのひとこま サイズ的にはX-37の約半分程度
まあそんなこんなで、今回はそんな日の丸シャトル・HOPEが出てくる今では涙なくして見られない?作品から。
「北京原人 who are you?」
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本作のHOPE-X2は無人のHOPE-X発展型という設定だろうか。打ち上げ機はLRB(つまり、大型の液体燃料ブースター)2本とSRB2本を装備したH-IIA222型,もしくはH-2B改良型っぽい機体である。LE-7B2基搭載のぶっといH-2Bの迫力の打ち上げに慣れている現在でも、このLRB2本、合計3基のLE-7級エンジンがどれだけ凄いものだったかは色々想像すると楽しい様で悲しい様で。見た目はアメリカの重打ち上げ機デルタ4ヘビー似(ただしあちらにはSRBは使用されていない)
しかしまぁ、ストーリーの根幹はというと「北京原人の骨を宇宙に持って行ってシェイクしたら時間が逆転して北京原人が生まれた」とかどういうギャグだ。再生マンモス、通称像マンモス1号2号までわざわざシベリアの極秘研究所から呼応して万里の長城まで走って北京原人を迎えに行く始末。北京原人が陸上で世界記録を出してみたり引田天功が北京原人を消して見せたりとまぁトンデモシーンのオンパレード。こんな作品だが、DVD化もされているので『デビルマン』ほどでないにせよ恐いもの見たさに見てみるのも一考。
しかし日中友好の記念作品がこともあろうに北京原人を日中で取り合うコレで、しかもその10年後には日本では無く中国の方が先に(しかもカプセル型宇宙船で)自力有人飛行を成し遂げてる+肝心のHOPEは無人のHOPE-Xすらモノになってない とはまた皮肉な話よな。
※追記
実は最近になって『宇宙刑事ギャバン』の新作映画でHOPE-X2が出て来たらしい。というか予告に出てる!!!まだ残ってるんだと言うのがオドロキ という以前になぜ火星にHOPE…惑星間宇宙船ですらないのは禁句 (25秒くらいのところ)
谷甲州『軌道傭兵(オービット・コマンド)』シリーズでは中古の無人HOPE改造有人型(!)が民間企業に売り払われてたり、正規の次世代HOPE有人型『飛鳥』*3などが無人補給機・次世代シャトルともども軌道狭しと活躍する別世界だが、この世界ゼンガーIIみたいな完全再利用スペースプレーンも実現してるわけで通常ロケットに頼らないと打ち上げられないこういうミニシャトルがあの世界でどこまで生き残っていけるやら。まあハスミ大佐と秋山飛行士の手腕に期待しよう。本作については最終回で触れることにする
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HOPE とは異なるがTBSの異色ドラマ『愛するために愛されたい』がJASDAなる組織に所属し宇宙飛行士を目指す主人公の周りを描きつつ…といいながらなんだかファンタジーになって視聴率低迷の中打ち切られて今でもメディア化が無いようだ。自分も立地に恵まれず拝見できていない。
Wikipedia→愛するために愛されたい
明らかに分かって書いてる感。誰かもっとまともなこと書いてください。脚本家の方とか
もう公式サイトも潰れて久しいので、昔配ってた壁紙などを張ってみるテスト。見た目は「顔が若干不恰好な500系で妙に曲線が多いSTS」と言った感じでなんとも言葉に困る。つか、外部燃料タンクにもノズル?SRBが多連?なんだかわけわからん
別ドラマ『特命!刑事どん亀』でもセットが流用されてた気がする。あっちは「衛星からインフラにまとめてハッキングできる」という某夏戦争も真っ青な話でこちらもなんだか頭がついていかん…
鳴海章『ナイト・ダンサー』
変わったところでは鳴海章の江戸川乱歩賞受賞作『ナイト・ダンサー』。ひそかに輸送されるはずだったが漏出した金属腐食細菌で大事な場所を食われ、着陸不能に陥った旅客機を救うために用意されるのが「日本版シャトルの着陸地誘致のため、自治体が勝手に作った長距離滑走路」である。
バブル期にはNASDAの新宇宙計画とバラ色の未来像を見込んで北海道・東北で結構派手な宇宙港誘致合戦があったといわれ、その跡地はたまぁに残ってるらしい。今それに近いものは北海道大樹町*4を残すのみである。
結局実際のHOPE-Xの無人着陸実験では海外・クリスマス諸島が予定されていたが、結局着陸試験も行われずHOPE-Xのキャンセルにより多くの予算がムダになってしまったなんてこともあった。まあ現実は厳しい。
滑走路以外のギミックとしては「陸自導入試験中のアパッチ」「E-2Cとの新データリンクシステムとの連携によるF-15Jでの長距離迎撃」なんてもの出てくるのが面白いが、流石にデータリンクで空対空ミサイル「を」迎撃はやりすぎ感もある。本作で登場した某人物はその後もこの時の戦いのトラウマで長く苦しむことになるがこれは続編?『荒鷲の狙撃手』等を参照されたい。
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仙台から始まる宇宙飛行士挑戦もの『パスポート・ブルー』という漫画でISSを乗っ取ったテロリストに対抗するため、無人のHOPE-Xのカーゴベイに一人押し込んでISSに送り込むという無茶があった。今ならHTVの与圧区画に押し込んで、といったところか。どちらも緊急脱出は無理なので打ち上げ失敗足死亡確定。今の日本ではよっぽどのことでも許可が下りないだろう。
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おまけ
HOPEも実現しなかったし、HTVも有人改造とか遠い話だし、もう日の丸宇宙船で有人飛行とか見果てぬ夢だよね…と思っていたら、あの男が来ちゃったんですよ。また、しかも「あの」男が。
2012年にビッグコミックスに連載されたゴルゴ13 第518話「流星雨の彼方で」でゴルゴは「中国経由で中東某国が国際宇宙ステーション攻撃を画策する旧ソ連製キラー衛星の破壊」を依頼されたが、タイミング良く乗れる宇宙船が無かったため、我らが日本のHTV・宇宙ステーション補給機 技術実証機に搭乗したのである!待てい!そもそもまだ有人型宇宙船として作ってないだろ!!! というわけで、種子島にはロシア経由で手に入れたっぽい再突入カプセルと宇宙服、そして某バレット対物ライフル風の専用銃が用意され、ゴルゴは珍しいことにこの信頼性がどこまであるか分からない宇宙船に文句も付けずに乗りこむのであった。
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流石にあんな場所が開いたらバレるだろう+ふつうのHTVはあんな場所開きません というのも置いておくとして、宇宙飛行も3回目*5ともなるとゴルゴも手慣れたもので、撃墜も成功、直後のトラブルもさくっと解決しむしろ日本のスタッフの方がビビりまくってる始末。最後には日本の技術陣へ貴重なアドバイスを残してオーストラリア某所に無事降り立ち、仕事を完遂したゴルゴはやはり真のプロフェッショナル…
(ちゃあしう)
*1:ちなみに、最初は翼端が立っているティップフィン型のデルタ翼機だった。ただこのロケットの先端に羽がついた構造をつけるというのはけっこうな不安定要素であり、風洞実験やシミュレーションの結果を踏まえ、初期に行われた自動着陸実験ALFLEXなどと異なる双垂直尾翼の機体に設計し直された
*2:ちなみにダイナソアはソリで着陸する予定だったとか。まあエドワーズみたいな広い場所があるからなあちらさんは
*3:さりげなく海上自衛官が操縦してるのだが政治的に「問題になる」のを恐れて秘密にしてるなどの時代を感じる場面も
*4:今でも複数のJAXA関連実験施設がある ただし、シャトルが降りることは多分10〜20年はないだろう 同様の例として谷甲州『軌道傭兵(オービット・コマンド)』の「十勝宇宙センター」というものもあった
*5:軌道上狙撃・一生一射でそれぞれ1回ずつ どちらもCIA経由だったっけ