杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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最近の読み物

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))

表題作を含む中篇四作からなる作品集

ギャルナフカの迷宮

どっかで読んだことがあるように感じられる作品。
正直、あまり好みではないので特に感想はない。

老ヴォールの惑星

私が読んだ作品から分析すると、この作者はまず話を少々進めてから一気に舞台説明を行うという書き方を好んで用いることが多いように思える。そのため、読み初めには作品に没頭しづらいと私は思う。とはいえ、この辺は好みの問題かもしれない。
私としては、この作品は面白いと感じた。しかし、どこが面白かったのかと聞かれると答えにつまるもの確か。とりたててインパクトがあるシーンなどは特に無い。とはいえ、全体の流れと構成が良く、読みやすい良作であった。
ただ、気に入らない点として、ラストでテトラントがなぜ大使になったのかがわからない。締めとしてのそのあたりの心理描写をもう少し丁寧に書いて欲しかった。

幸せになる箱庭

この作品を読んで気になったことは、ガス惑星といわれている木星に大地はあるのかということ。老ヴォールの惑星でも少し触れていたが、そこでは海があるように書かれていた。しかし、隕石が惑星を砕かずに素道りしていったりと、よくわからない。この作品では、何かの施設があるように書かれているし。
このことを焼豚氏に訊ねたところ、中央の核は固体として存在するかもしれないが、惑星として見える部分は気体である、とのことだった。以上、参考までに。

漂った男

これも気に入った作品である。
この世に永遠など無いのである。愛情も友情も時間と共に失われてしまうものなのだ。それでも残る何かがあるのだと信じたい。そんな作品。

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

読んでわかったことは、この作品の主成分はどうもキリスト教への風刺であるようだ、という事だけだった。それなりに名前を聞くので読んでみたのだが、正直あまり面白いとは感じなかった。というより、世界最高の無宗教国家である日本人が宗教批判を読んでも面白いわけないのでは、という気もする。宗教に関する話だけではないとはいえ、聖書を読んだことのある人のほうが少ないこの国で、この内容を面白いといえる人間はよほど教養があるか、ただの見栄っ張りではなかろうか。

  • 『猫のゆりかご』…あやとり、のことらしい。
  • 『ボコノン教』…作中で作られた宗教。教義は基本的に詩のようなものでできている模様。翻訳文では面白さが伝わるわけが無い。キリスト教への皮肉でいっぱい。
  • 『アイス・ナイン』…作中で原爆を作ったとされる人物がつくった困ったもの。分子の配列をかえて、常温でも固体化する氷としてつくられた。ちなみに、この氷のせいで世界中の水(海を含む)が固まってしまい、世界は滅びることに。
  • 『モナ』…主人公が惚れた女。作中では完全なる聖女だと皆がいう。主人公と結婚することになった彼女に、主人公が自分以外の人を愛さないことを要求すると、全ての人間を愛さない人間は最低だと本気でおっしゃる女。これもキリスト教に対する風刺なのだろうと思う。