杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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最近の読み物

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

 中篇四作からなる、作品集。
 読んでみて思ったのだが、この作品は全て精神に関わりのある作品ばかりだった。ほかの作品もそうなのだろうか?
この他に、この作者は物語のラストで、それまでの話の流れと全く違う見方からの解釈を登場人物に行わせるのを好んでいる様子。

デュオ

 音楽と超能力、それと人間関係が主題。双子の兄弟で下半身がくっついている、天才音楽家の話。この兄弟は二人で一つの音楽を奏でるために、意識を統合する精神場を持っているが、そこには死んでしまったはずのもうひとりの兄弟が住んでいる。これは主人公とその死んだはずの兄弟の争いの話なのだが、なぜ争っていたのかを既に忘れてしまった。
 私としては、面白いとは思えなかった。話の展開もオチも古いなぁと思ったら、92年の作品だった。むべなるかな。音楽を小説で描くという試みは『四日間の奇跡』を思い出したのだが、あの作品はどこがミステリだったのだろう…、思い出せない。

呪界のほとり

 宇宙が変化した空間である呪界のほとりに追われてきた記憶喪失の男と、そこで宇宙船が事故に遭い呪界に憧れながら暮らしていた老人の話。この呪界を移動するのには、人間が生み出した竜が必要である。この話のオチは、主人公が『ありとあらゆる価値の中心“形而上の黄金”』であり、彼の連れた竜が『その番人にして検閲者たる“抽象的な竜”』であって、老人は主人公を助けるためにこのほとりで運命に待たされ続けたのだ、と老人から聞かされることである。
 なにやら、ラノベで使われてそうな題材。正直、趣味じゃない。よって、感想はない。

夜と泥の

 とある惑星で、惑星開発用のシステムがプログラム内で争いを行っている。それは、当初プログラマーが組み込んだ感傷が引き起こしたバグだと思われていたのだが、実は惑星に住む何者かの意思が介在していることがわかるのだった、というお話。
 少女の変貌や惑星の意思の存在などの題材は、個人的に結構好きな内容だった。ゆったりとしたその侵略は惑星を静かに蝕んでいく。その過程で変貌してしまった少女の描写は、とりたてて優れていたわけではないが、私の感性に響くものがあった。

象られた力

 ある星でうまれた模様がいくつかの星で人気を博すが、実はその紋様はいろいろと変化させることによって人間に秘められた力を解放する鍵になるのだった。力が目覚めてしまった主人公は、その力を封じるために住んでいる惑星ごと反転させ、宇宙からその星を隔離してしまうという解決策をとる。
 これも、割と面白かった。しかし、なぜこの作者は侵食モノがこんなに好きなのか。この作品も、実は文様が意志を持って人間を侵食しているという話だった。この中で、ラストで行われる話の持っていきかたは、蛇足のような感じもあるが個人的には気に入った流れだった。

歌う船 (創元SF文庫 (683-1))

 奇形児などの幼児は体から脳を抜き取って、船の頭脳として生きていく権利が与えられる世界。この世界で歌を趣味とする船がであう、出会いと別れを書いた作品。
 なかなかに面白い作品(60年代の作品であることを考えれば、傑作だろう)だが、訳者が悪いのか、文章が若干読み辛いのが難点。まぁ、面白いとはいっても昔の作品なので読んでみる価値があるというほどではない。SFではあるが人物描写に力を込めており、理論などにはほとんど触れていない。
ちなみに、この頭脳船によく似たモノが以前書いたスカーレット・ウィザードに感応頭脳という名前で登場する。あぁ、歴史は私の知らないところで積み重なっている。  
ところで、脳だけなら眠らなくて良い、というのは現代医学からみて一言いわずにはいられない描写ではなかろうか。

鉄(くろがね)のラインバレル[漫画]

 探検隊さんの漫画。
 力を求める、少々歪んだ少年の前に突然現れる巨大ロボット。物語はテンポ良く進み、主人公は争いに巻き込まれていく。突然目の前に現れたロボットにいきなり乗り込むのはさすがにどうかと思うが、まぁ、それもOK。この漫画のいいところは一巻で親友が死ぬところだし。
 この作品の評価はまだ未定。これからさきで、主人公が親友の死をきっかけにさらに性格が歪んでいって、物語が加速して行ってくれることを希望。この主人公が丸くなったら、どこにでもあるロボットものになってしまうだろう。

                                <銀>