杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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どくしょほうこく

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)グレッグ・イーガン

グレッグ・イーガンのリンクによると、『最新の数学・物理学に関する理解の深さはSF作家の中でも群を抜いている』らしいのだが、私に言わせれば、群を抜きすぎていた。私とイーガンの間に、架橋者が三人は必要だと思う。まさに、次元が違う作品。しかし、『SFのアイデアを、ストーリーの小ネタとしてではなく、人間のアイデンティティという、一貫したテーマに直結するものとして描きだすことのできる希有な作家』という点は正しく、ストーリーは面白かった。
よくあることだが、この作品でも主人公(ヤチマ)は筆者自身の投影なのだろう、と感じた。研究大好きな所とか、特に。そうすると、ヤチマが《コニシ》ポリスから不要と判断されたことからを考えるに、イーガンは自らを社会の中では不要であると考えているのだろうか、…と少々深読みしてみた。
あと、少々気になったのが、作中に多く存在する『新たなことを知るのに興味をもたない』人々 ―つまり、科学の発展に貢献していない人のことであるが― に対する扱いであった。“肉体”に拘った人々は自然現象で全滅させられたし、異星に興味を持たなかった人々も“コア・バースト”によって住んでいた場所を強制的に追われることになった。イノシロウは生きた死体になったし、パオロはその生涯を走りきり、人生を終えた。永遠の命を持つためには常に貪欲な知識欲が必要なのだ、という含みを持っているようにも読めるが、私には筆者が、筆者と同じ志向/嗜好? を持っていない人間などいらぬ! と言っているように読めてしまったのである。
以上のことをまとめると、イーガンは自分が社会には必要とされていないと感じているが、同時にイーガンも、自分を認めないような社会など必要としていない、ということを言いたい作品だったのだろう。別に、作品が難しくて解らなかったから嫌味を言っている、というわけではありませんよ? ………。

ハイぺリオン(ダン・シモンズ

この本を貸してくださった先輩曰く、SFのすべてがつまった本。私の読んだ感想もそんな感じ。ただ、『ハイペリオン』は物語の序章、といった内容で、面白いかどうかは次巻の完結編『ハイペリオンの没落』次第。
内容は、星間戦争、機械知性と人類の対立、時間の逆行、神として扱われる異星人(?)との遭遇、などの様々なものを合わせて構成されている。この複雑さで、次巻においてうまくまとまっているのならば傑作と呼べるだろうが、さて。


ここからは、ラノベ

とある魔術の禁書目録(インデックス) (8) (電撃文庫)鎌池和馬

キャラが増えすぎて放置されているこのシリーズ。ついに作者は、主人公をほとんど出さないことで脇役を活かすという方法を取った。本来、主役と脇役の両方を活かしてこそ実力があるといえるのだろうが、筆者の努力は伝わってくるので、まぁ良し。
感想。努力の跡は見られたが、あまり好みではなかった。あと、今回の敵はあっさりと精神崩壊を起こしていたが、その辺はもう少しうまく表現できたのではないかと。

9S(ないんえす?)SS (電撃文庫)葉山透)

一巻があまりにも某同人ゲーム『月○』に似ていたこのシリーズ。その七冊目にして短編集になる。
『男の生き方、プライスレス』はなかなか面白かったし、『Lady Steady Go!?』も悪くなかった。しかし、それ以外の三話は微妙。私の中では、ヒロインはあそこまでバカではない。まぁ、短編集だからこんな扱いなのなのだろうが。