杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

読了(ネタばれ上等!)

猶予(いざよい)の月

谷川流が読んだ本の一つとして紹介されていた本のなかで、題名に興味が持てそうなものを読んでみたわけであるが、結果、どうやら『涼宮ハルヒシリーズ』で世界は〜年前にできたのだ、といわれている発想はこの本を参考にしたらしいことが発覚した。
おもいのほか面白くて驚いてしまった。内容はカスミに住む第三眼を持つ存在の何人かが、手違いで地球リンボスの人間の体に入ってしまい、各人が己の望むものを手に入れるためそれぞれの行動を起こす、という感じのもの。
姉と弟の禁断の愛とか、その辺が実は主題だったのかもしれないがわたしにはたいして興味がないというか、よくわからなかった。他の二、三作を読んで思っていたのだが、神林の作品の人間心理は理解しづらい。感性が違うのであろうか。あるいはわたしの感性が未熟なだけなのかもしれないが、もしそうなら『生涯子供』を標榜として生きているわたしが理解できる日はおそらく来ないであろう。
この作品でわたしの気に入った部分は、ヒトの見ていないものは動いていない、というあり方である。それまで動いていなかったものは、誰かが観測すると同時に世界への同化が始まり、あらゆる矛盾を世界が修正してしまう。細かい設定は読まなければ分からないだろうから省略するが、自分が見ていないときには世界は本当は動いていないかもしれない、という畏怖おそれは子供の頃に誰もが一度は抱いた幻であろうと思う。ほかにも、無から始まった宇宙は、存在する次元を一つずつ削ぎ落としていって最終的には無に戻るという発想もおもしろかった。まぁ、その無になった世界に残るもの、世界の正体は愛だ、などといわれても困るのではあるが…。
とりあえず、個人的には大変気に入ったので、いずれ焼豚氏から『完璧な涙』でも借りて読んでみようかと。


以下、ラノベ

青葉くんとウチュウ・ジン(松野 秋鳴)

MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞受賞作。
この出来で新人じゃなかったら許せません。というか、許しません!

その本、持ち出しを禁ず(十月 ユウ)

異界司書が本を管理する話。これである程度内容は分かると思う。
これも新人。ただ、こちらは場合によってはわたし好み(この場合、萌えキャラが出てこなくても面白いという意味)の作品を書けるようになりそう。まぁ、まだ新人なので気長に待ちます。

ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)

中身など何もないが、ただその語感が面白くて読んでいる。この基地外じみた言葉こそこの作品が売れる理由だろうとわたしは思う。とはいえ、作品が終わっても全く回収されることのない伏線を作中に山ほどばら撒き、読者の想像を強く掻き立てるやり方はエヴァからの伝統であるが、それを可能としている作者の速筆と物語を破綻させない構成力は才能だろう。…構成の方は初めから破綻していたという見方もできるが。ちなみに、『戯言シリーズ』よりも『魔法少女りすかシリーズ』の方が好み。
前に出た作品の内容をよく覚えていないので適当なことをいうかもしれないが、以下に最終巻の感想を。
まさか、ここまでハッピーエンドになるとは思わなかった。確かにこれまでの根本的ラジカルな論理をネコソギ否定された気分。まぁ、ハッピーエンドはいい。個人的には好きだし。ただ、狐面を殺さなくてどうする。結局いーちゃん(主人公)は最後までなにもしなかったことになるじゃないか、コレ。これまでは、いーちゃんが戯言を遣っているうちに身近なヒトが死んでいって動揺しているシーンがあったと記憶している。最終巻でもいーちゃんは優しい(個人的にはこれこそ戯言だと思うが)なんてセリフもでてくるし、誰かの死に何も感じていなかったわけは無いと思う。だからこそ、狐面と決着をつけることでいーちゃんは周りの人々を守る覚悟を決め、成長するのだと考えていた…のだが、結末は「一生付き合うって、決めましたから。」…成長してねぇよ、コイツ。誰かが死ぬことで感じてきた苦しみ、そのすべてに対して、のどもと過ぎればといった感じで…、なんというか…、ハァ。敵味方とわず散々死なせてきたその結末に、殺そうと覚悟を決めた唯一人を見逃す、…ここに至って僕は誰も殺してませんよ、といった行動はもはや偽善者にすらなれないと思うんだが、どうよ? 人を殺すのが正しいわけないのは勿論だが、それでもこの結末はなぁ…。不殺ではなく、ただ逃げただけにしか思えない。なにかしらの解決策くらい用意して欲しかったなぁ。
結局、面白いが最悪、というのがシリーズに一貫した感想だった。