杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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擬態―カムフラージュ ジョー・ホールドマン

擬態―カムフラージュ (海外SFノヴェルズ)

擬態―カムフラージュ (海外SFノヴェルズ)

 検査によって、アメリカの諜報社会に属するものが、少なくとも名目上はいずれも人間であるということがわかった。
そして著名な政治家たちも、大統領を含めてすべて人間だった。
 この結果には少なからぬ人間が驚かされた。

去年出たハードカバー作品。
「スフィア―球体―」のように海中で発見された謎の物体の引き上げをめぐる話と
地球に来てこの方ずっとサメの形態で過ごしてきたが、思い立って人間になってみた
高度な擬態能力を持つ地球外生命体<変わり子> そして同様な能力を持ちながら自らの本能のままに
歴史をかける第二の擬態生命体<カメレオン>の物語が交錯する。


1934年に海岸で青年を殺して摩り替わって以来2019年まで続くヒトとしての「学習」過程
そして一人暮らしを始めて以来、年齢を変え性別を変え続く人生が本策の肝。
小林泰三「ΑΩ(アルファ・オメガ)」でも「ガ」によるリキが入った肉体構成シーンがあるが
人としての学習はそれ以上に長く、また大変である。<変わり子>の能力を持ってすれば
虐待されようが拘束されようが脱出できるにもかかわらずそれでは「規範」が学べないのでぐっと我慢
なんかは見ているこっちがつらくなる。それでも人間の持つ奇妙な特徴をひとつひとつ学んでいき、
必要とあらば他人にチェンジ。好奇心旺盛なせいか、やけに高学歴なところがうらやましい


そのへんに焦点があってかSF要素はかなり薄い。物体がどこから来たか推察するため
物体の周りに他惑星の環境を再現する(水星から木星、さらには冥王星まで!)なんて
無茶なことをやるあたりは面白いのだが。あとどうでもいいけどこの世界だと中国は「我々の側」
アメリカにとって)らしい。中国製ロケットエンジンの信頼性に驚嘆するシーンがある。


また、<変わり子>に比べると<カメレオン>は比較対象としてはなんだか普通 
というかいわゆる「悪の宇宙人」でありひねりがない感がある。おかげで最後に
月並みになってしまった間は否めない。


日本人としては捕虜になった主人公&海兵隊員の末路、ずばり「バターン死の行進」が中々考えさせられる
いろんな意見があるようだがまとまらないので自分のコメントは差し控える。
このあたりは<カメレオン>との立場の相対化という意味は大きいのだろうけれど。
少なくともアメリカ人はこう習っている、というのはわかる。(いちおう某将軍がさっさと後退したことは載ってる)
ちなみにホールドマンといえば戦争SFだが、本作ではまるでなし。
ひとつの人生譚と小さなファーストコンタクト物として読むのが吉。