杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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 背後に止まってすぐハイジャック 〜狂気の大強盗計画〜

戦闘機によるハイジャック、全く起きないことはおそらく不可能だがもし万一起きてしまったら??はたして解決側の打てる手はあるのか?
という似非ミリオタの妄想を少々。戦闘機の手に入れ方についてはご想像にお任せ*1しよう(何)


同様のケースを扱った作品と言えば笠原俊夫の漫画「シャドウ・キャット」がある。

シャドウ・キャット (ボム・コミックス)

シャドウ・キャット (ボム・コミックス)

エアフォースワンが所属不明のF-14トムキャットに攻撃され、大統領が脅迫される。しかし、トムキャットはまだ実働機のはず*2。どこから入手したのか?搭載する武器は?そして取りうる戦術は?こちらも一つ一つ解明しながら結末へ向けて進んでいく。某映画に先駆けて「大統領機を救うべく、ミサイルを引き付けて盾になるF-15」が登場するのもポイント高し。
一番大事なのは「敵の装備が何か」。機関砲やロケット弾のような無誘導の火器を装備している場合、敵にこちらの手を気付かれた時点で即トリガーを引かれて終了、人質全員死亡が確定する。もちろん爆弾が仕掛けられていて機内からスイッチ一つで…でも同様。
ただ、相手も(おそらく)人間、しかも戦闘機に乗るくらいだから空戦慣れしている人間なので、何らかの方法でスキを誘えば思わず自分の身を守る方を優先しようとして旅客機との距離を離すことはできるかもしれない。今回はそうした場合を考える。

  • レーダー誘導ミサイルの使用

レーダーでロックし、ミサイル自身もしくは母機の誘導で敵を破壊するミサイル。
多くのミサイルはチャフ・デコイのような妨害手段を無視するため、より大型の目標に誘導されると言われる。なので戦闘機をロックしたつもりが体が勝手に〜なんて可能性は否定できない。
これを違うケースながら扱ったのがネルソン・デミル(ドミルと記述されることもある)&トマス・ブロックの「超音速漂流」。これも実は最近再版されている。

超音速漂流 (文春文庫)

超音速漂流 (文春文庫)

超音速漂流 (文春文庫 (275‐21))

超音速漂流 (文春文庫 (275‐21))

ミサイルの演習を行っていた空域に旅客機が誤って侵入。標的機に向けて発射されたはずのミサイルはより大きなレーダー反射面積を持つ旅客機を自動でロックしてしまい命中してしまう。幸か不幸か演習用のミサイルだったので、「大穴があいただけ」で済んだ旅客機。しかし高度1万メートルを飛んでいる旅客機、中の人が無事では済まない。乗員乗客の一部はその時点で即死。そして残った人間の多くは酸素欠乏により「正常性」を喪失していた… 旅客機パニック+陰謀サスペンス+疑似ゾンビホラー(!)という「シャドー81」同様飛行機小説の傑作。最近のミサイル(AMRAAM)なんかは「賢い」ので、欺瞞には強いようだが民間機だからよけてくれる、とはいくまいか。
逆に犯人側が使ってくれた場合には最悪発射されても阻止できる可能性がある
1・ECMでロックオンを妨害する
2・母機を撃墜して誘導を止める(セミアクティブの場合)
セミアクティブ誘導ミサイルは母機からのレーダー波の反射を追尾するミサイルのこと。エースコンバット(5以降)だとヘタな中距離ミサイルより異様に命中率がいいSAAMだが、現実世界ではロックオン中には回避運動ができない・信頼性が低い・おまけに射程が中途半端ということであまり使い勝手がよくない。
金属片をばらまくチャフはよく使われるが、はたして旅客機よりデカいレーダー反射面積を作れるかは難しいだろう。
ただ、レーダー誘導ミサイルは相当射程が長く、近距離では撃てないことが多い。わざわざ旅客機に接近してるのに発射のためだけに離れないといけないのは犯人側にとって不都合。

  • 赤外線誘導ミサイルの使用

いわゆる撃ちっ放し(ファイアアンドフォーゲット)能力を持つ赤外線誘導ミサイル。発射された時点で一番高温の目標を追尾するため発射後の誘導は不要。昔は太陽や地面の照り返しを追尾する不具合もあったようだが、現在は改良が進み除外できるようになった。
機動中の戦闘機ならエンジンの排熱は大きいので狙い目だが、巡航中は流石に犯人も自重して出力を抑えているかも。そうなると、肝心な時にどっちに行くか分からんミサイルをぶっ放すのは危険。最悪人質を誤射しかねない。
相手が撃ってしまった場合にはもう手は限られている。高温を放つ燐光弾 フレアを旅客機の手前でばらまくか、エアフォース・ワンを救ったイーグルのように最大出力で旅客機の後ろに付きミサイルを引き付けるか。いずれにせよとっさの判断を下せるかがカギ。
「シャドウ・キャット」では犯人側が赤外線誘導ミサイルを使っているが、もうひとひねりあるのでこれは実物を読んでのお楽しみということで。劇中では赤外線誘導ミサイルの最短射程にも言及がある。やっぱり近すぎると自分も危ないせいもあって撃てないのだ。
近年使用されているエアフォースワンイスラエルの旅客機は対ミサイル欺瞞装置を標準装備していることで有名。スティンガーやレッドアイ、ストレラといった歩兵用の肩打ち式地対空ミサイルが紛争地域からテロリストに渡り、テロに使用されることが警戒されているため。米国では旅客機用のミサイル欺瞞装置だけでなく、ミサイルの誘導センサーを破壊する小型レーザー*3も研究が進んでいるという。


「ミサイルの誘導方式」については以下も参考に。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%AA%98%E5%B0%8E%E6%96%B9%E5%BC%8F

  • 機関砲の使用

西側で一般的なM61バルカン*4機関砲の空中での射程は約810m。ハッキリ言って空中では至近距離もいいところで、これを遠距離からピンポイントで当てようと思っても後方警戒レーダーで犯人側に気付かれてしまう。ただ前述のようなミサイルが人質側にあたる危険を冒すことを考えると、犯人側を意地でも空中格闘戦に追い込んで機関砲で落とすしかないかもしれない。
レールガンやレーザー・荷電粒子砲のような弾速・射程申し分ない兵器ならバレるまえに一発で仕留められそうだが、こんなものが普通に使えるならば犯人もそれを使える状況にありそう。


犯人側としては、シャドー81で出ているように「半径数Km以内に近づくな」で十分こちらの動きを封じることが可能なので、やっぱり掟破りの奇跡か超人じゃないと解決は無理かも。たとえば某凄腕狙撃手はハリアーに乗りながら自機に発射されたミサイルをM16で撃ち落としたりしているので、たとえ旅客機に乗っていようと戦闘機を返り討ちにするだろう。
…仮定に仮定を持ち出して反論するのイクナイ!


ちなみに、「戦闘機によるハイジャック」で犯人側にとって一番の問題となるのははやっぱり航続距離&滞空時間。ハリアーIIの航続距離が1200kmと言われるので、燃料タンクを搭載したとしても国内線ぐらいにしか張り付けない可能性が大きい。ぬぅ、現実は厳しい… ハリアーはなにかと映画やゲームで登場するため便利そうに見えるが、搭載量や燃費の点で問題が多い。VTOLが普及しなかったのは当然か。

  • おまけ

なら、旅客機が凄腕狙撃手のような奥の手に頼らずなんとかハイジャック犯を撃退する方法は・・・??
・捨て身の戦法
「ALICE12」(新谷かおる)と「謀殺の翼747」(山田正紀)にそれぞれあるが、要はジャンボが「唯一戦闘機に勝っているもの」を使えばよい。ただし自分が墜落する危険を犯すことにもなる。本当に大丈夫か?

ALICE12 (MF文庫 9-9)

ALICE12 (MF文庫 9-9)

謀殺の翼747 (中公文庫)

謀殺の翼747 (中公文庫)

・窓からゴミを捨てないでください
旅客機の後ろから布なリ何なりを飛ばして戦闘機のエンジンに吸いこませる!
…ドアが飛行中に開きだした時点でバレる。おそらく。
インディの親父みたいに鳥の協力を仰ぐことも一瞬考えてみたが、旅客機のほうが被弾面積が大きい。これも無茶か。


すんません。タイトルから飛ばした割にはオチがないです。

*1:戦闘機はアニメ的に乗ればすぐ動かせるメンテフリーな兵器じゃないぞ!さて、どうしたものか。

*2:当時の話。今では海軍を退役し、イラン空軍が使っているのみ。

*3:戦車の自衛用に同様の装置が実用化済み

*4:商標です 頭についてるアレではありません