杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

ナンシー・クレス「ベガーズ・イン・スペース」

読んだ中で部会とかぶりそうにないものだけ(といってるくせに一冊とは何事だ)

バロウズだ」
「『裸のランチ』の?」
「いや、ウィリアムじゃない」
「なら、誰の――」
エドガー」
エドガー・バロウズ?すると、きみが書いてるのは…」
「そう、そのとおり」
<<中略>>
「蓼食う虫は好き好きだよな」
「蓼食う虫『も』、だよ」
「おれの論文はキーツだ。彼の晩年の作品『ハイペリオン』における精神と性の関係について。けど、きみはキーツは好きじゃないだろうな」

SFファンにハイペリオンで喧嘩を売るとはいい度胸だ。・・・ってちゃんと読んでるかい


ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ずっと前にプロバビリティ三部作を読み、「短編的アイデアの人」という印象を受けるので短編集のほうも読んでみた。

・ベガーズ・イン・スペイン(スペインの物乞い)
遺伝子操作で眠らなくといい人間「無眠人」が誕生。眠らなくていいため頭はいいし、鬱にもならず知能も高いしといいとこどりの彼らの出現は世界をやがて憎悪に陥れる。双子として生まれ、片方だけが無眠人となった2人の間にも…
新人類テーマを「家族」というレベルで再構成。

でも、眠る時間を渇望している自分にとっては色々な意味で悪夢である。んー、最初からそう生まれれば困らんのだろうが…
・眠る犬
無眠人その2。「有眠人」の女性と一匹の犬の関係はやがて無眠テクノロジー登場による社会の変容へに影響されてゆく。

・戦争と芸術
異星人との戦争の中、相手が持ち去っていった人類の遺品の意味を探る男。ミリタリな側面は三部作にも通ずる

・密告者
プロバビリティ三部作の「世界(ワールド)」を舞台にした原型短編。共有現実を持った罪人と地球人という「個」を持った異邦人の出会いが世界人の世界に揺さぶりをかける。戦争が無い分テーマはより鮮明になる。

・想い出に祈りを
記憶技術に関する小品

・ケイシーの帝国
SFオタの願望系。そんなイやんな書き方せんでもいいのに。そっちのバロウズの分析では文学部の単位は貰えんよなぁ
・ダンシング・オン・エア
人間の言葉を解する捜査犬が、バレエダンサー殺害事件を追う。体の強化技術が、単に軍事やらスポーツだけではなく、芸術なんて分野にも影響を与えるかもしれないという点に関して。けっこうありそう。


どれも長さに対するまとまりと着眼点は良い感じ(ケイシー除く 同族嫌悪か?)。三部作に手を出す前に読んだほうがいいかもしれない。