杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

山本弘「MM9」

まあ、あんなあどけない顔で、質量保存則をあっさり破ってくれちゃって。

MM9

MM9

もっと早く読んどきゃよかった。
怪獣災害というものが実在する世界。怪獣対策は予測から、ということで日々怪獣に立ち向かうは我らが気象庁特異生物対策班「気特対」!ただし戦闘力はないのでそのへんは自衛隊にお任せ。彼らの仕事は果たして人々があこがれる正義のエリート公務員なのか??
いやぁ、軽いのに読ませる。二話にして氏の最大の趣味全開だったりするのは人によってはドン引きだが*1、「そういえばニューギニアから密輸されたオパールが怪獣の卵だったという話があったな」等のニクいネタセレクトはうれしい*2。その一方でSF方面とホラー方面、さらには諸星大二郎テイストの民俗学の方面で大量の設定を盛り込んでるのにバリエーションと持っていき方のため飽きさせない。怪獣の出現理由が「人間原理」の拡張版、ビッグバン宇宙と神話宇宙の二つの宇宙のぶつかり合いで説明されたり、各地に残る神話から怪獣と世界の関連を探ってみたり。そして本作もまた氏の他作品同様、登場人物たちの「選択」が光る作品でもある。山本弘は一時柳田理科雄にケンカを売ってまぁ色々やった挙句今は接点も何もないようだが、本作は柳田氏に対するSF作家なりの「回答」と言っていいんじゃなかろうか。
こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』

こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』

本書はちょっとケンカ腰過ぎるがね。
最終話は文字通りの「黙示録」最終決戦であり、怪獣ものとしてはお約束の怪獣対決ものでもある。ちゃんと「ふんぐるい〜」も唱える!と感動(?)もひとしお。かの小林泰三「AΩ(アルファ-オメガ)」も特撮+クトゥルーを目指してたわけだが、後者に重点が置かれていてちょっと前半とはアンバランスになっていた。本作は「本作世界の成立」にまでちゃんと繋がっているあたりは感心する。両作の人類の味方の競演とかどうでしょう(両方とも外観的な問題で無理無理無理ィ!)
ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

これだけで話は一応収拾はついているのだが、番外編短編ぐらいは(ネタも豊富だと思うので)作ってほしいものだ。…そうだ、宇宙怪獣が出てきてないではないか!もちろん登場シーンで宇宙ステーションを飲み込むのお約束だよね(ぇー

*1:あるいはア○ネス呼び出し

*2:でもやっぱり全てが理解できるわけではない。解説本が欲しいくらいだ。