杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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ジョン・スコルジー「老人と宇宙3 最後の星戦」

最後の星戦 老人と宇宙3 (ハヤカワ文庫SF)

最後の星戦 老人と宇宙3 (ハヤカワ文庫SF)

「マジェラン号が通常の二倍の食料を積んでいて良かったな」
「いまの感じだと、二倍あっても長くはもたないかも」
「そうか。でも、古いことわざでは、熱には餌をやるなというよ」
「今回の場合」ジェーンはいった。「その古いことわざは完全にまちがってる」

前作「遠すぎた星」の主人公は<<自主規制>>なので、再び主人公は「老人と宇宙」のジョン・ペリーへと戻った完結作。ペリーは激戦を生き残ってあの葉緑体ボディを通常ボディへと戻してかつての妻、そして前作のとある人物を養女として迎えコロニーの監督官としてアレな管理職の毎日。そんなある日、彼に新たな任務が与えられる。それは複数のコロニーから参加者を募ったうえでの新たなコロニー開拓。惑星は多種族から「譲ってもらった」というのだが。ひとくせもふたくせもある参加者を従えて惑星へ到達する直前、恐るべきことが判明する。目的地は擦りかえられており、連絡も帰還も不能になっていたのだ!一体何故か?実はこれには人類側「コロニー連合」と異星人たちの合同会議「コンクラーベ」の対立が背景にあった。逆探知を恐れてハイテク機器を使用できない植民者たちの運命は?
前半は突如として「ルナゲートの彼方へ」を思わせるサバイバル話になり、なぜそうなったかを推論する過程で異星人と人類がうまくいってない最大の原因が解き明かされていく。宇宙という広い場所であっても開発できる場所は限られており、異星人たちの「コンクラーベ」はその管理をつかさどっているのだ。コンクラーベは人類に植民地のこれ以上の拡大を許さないこと、これ以上増やすのであれば容赦なくこれを破壊すると宣言する。ペリーたちの植民地が「行方不明」になっているのを時間稼ぎとして、コロニー連合はコンクラーベへ反撃を試みるのだが・・・
 これまでが個人の戦闘とチームの戦術の話だったのに比較すると本作が焦点を当てているのは弱小な一種族・人類と、コロニー植民者たちの「戦略」。圧倒的に有利な巨大な敵にどう立ち向かっていくか。実は人類のためならコロニー数個つぶれても致し方ないと考えている連合に植民者たちはどう行動すべきなのか。前作で作った味方や限られた戦力を利用し、ペリーたちは立ち向かう。最後にはちゃんと謀略のみではなく戦闘もあるぞ。鍵を握るのは一方通行+停滞フィールド?
何はともあれ、前作・前々作の登場人物も取り込み、さらに人類側にも異星人側にもある一物を明確にした上でペリーは新たな選択によって両者の間に入ろうとする。初期の「宇宙の戦士」や「終わりなき戦い」とはまったく違う、人類への明るい展望も見られて清清しい終わりだと思う。近年早川でいろいろ出ているネオ宇宙戦争物の中では個人的には成功作じゃないかな。まぁ、女の子で泣きつかれただけであっさり折れんなというツッコミとかもうちっとゼントランな老人たちのアクションも見たかったという意見かもしれないが、そのへんは短編とかで補完されることを期待。
あと、作中で言及される「消えた植民地」の話は調べてみるとホラーのように見せかけて意外なオチが付く。まさか連合もこのことを分かっててペリーに期待してた?な訳はないか。裏読みしすぎイクナイ!

追記

引用はどうも不自然で気になっていた表現なのだが、「Don't feed the troll」で「釣りネタに餌をやるな」、つまり「荒らしやネタににマジレスすんな。無視しろ。」という意味になるそうだ。そのあたり...なのか?(文脈は通るけど)
(ちゃあしう)