杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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人類を生かさずコロサス D・F・ジョーンズ「コロサス」

すんません 一回だけやってみたかったので。
D・F・ジョーンズ「コロサス」(ハヤカワSFシリーズ)
 アメリカ合衆国ソビエトに対抗しながらも、人類を滅ぼすような偶発的戦争を防ぐため
開戦判断をすべて超大型人工頭脳「コロサス」に一任することを決定した。コロサスは
自己修復すら可能で直接攻撃も不可能。誤った判断も行わない完璧な頭脳である。
しかしソ連側がまったく同じ目的のシステム「ガーディアン」を起動。両者はネットワーク接続を開始し
互いに人間を無視して情報交換を始める。機密漏えいを恐れた首脳は回線を切断。しかし
両者はそうと知るや核ミサイルを互いに発射した!撃墜して欲しければ回線を復旧せよ。
さもなくば両国の都市は壊滅する。高度な人工知能は人類の手を離れて動き始める。

テレタイプは忙しげに打ち続けた――
    .A
   . .
   .  .
 B. . . . .C

三省堂の絶版本フェアin神保町で見つけて衝動買いした銀背の一冊。あとワールドコンで「映画化されてるけど
タイトル分かる?」と振られた小説。ちなみに正解は「地球爆破作戦」。だけど私のような若造があんな場で
手を上げて言えませんでした。すみませぬ。
ちなみに映画の日本語版では名称が「コロッサス」になってるらしい
 プレゼンでもあったとおりコロサスのモデルになってるのは半自動迎撃システム「SAGE」
(あと、チューリングもかかわった暗号解読システムの名前もコロッサスだといわれる)
あのころは戦闘機=ミサイル運搬機になるとすら考えられていた時代。
復活の日」の自動報復システムに似たものは現実に存在したそうだが、こちらはさらに「賢い」存在が
戦略全てを握っているという設定。同じテーマだとゲームと現実の区別が付かないEDI*1
じゃなくてWOPRなるコンピューターがハッカーにそそのかされて核戦争ゲームを始める映画「ウォー・ゲーム [DVD]」があるが、
WOPRが核戦略の結論を最後に理解する(ネタバレになるので書きません)のに対しコロサス&ガーディアンはそれが
分かりきってるので、とさらに上に行ってしまうところが恐ろしい。でも正当化の過程で使われる論理はやっぱり古い。
だからってサルに主導権を渡そうとしたり絶滅を画策したりしませんけど。


上の記号は両者の「交信」のテレタイプのうちの数行。どこでも共通である数学的法則を
まずは共通プロトコルとして通信を進めていき、最後には人間が未発見の法則に到達して
テレタイプの印字可能速度を超えてしまう(!)という展開がいかにもレトロフューチャー
でよい。モニタが無い時代は印刷速度の向上はどこまで見積もられたんでしょうな


映画化もされたというのにあのラストはいろんな意味で思い切りがいい。「まさか?」
の一言に含まれる重さが感じられる
・・・というのに続編があるというのはいかがなものかと。しかも二冊。
商業主義って恐ろしい。


ハインリヒ・ハウザーの「巨人頭脳 (創元推理文庫 630-1)」なんてのもあったけどこっちはさらに古い印象があったな。
蟻研究の第一人者が自我に目覚めた米軍の指揮システムに挑む話で、解決策はもちろん・・・
って捻ってねぇ!まぁドイツSFの珍しい翻訳ではある。

*1:映画「ステルス」 ロシアの核融合施設を空爆する演習用プログラムを勝手に実行する