ロバート・チャールズ・ウィルスン 「時間封鎖」
十月事件以後の子供たちは、月を一度も自分の眼で見ることなく成長していった。ぼくよりもわずか五、六年あとに生まれた世代は、星についての知識を、、適切性をどんどん欠いてゆく軽薄な解説や古い映画などからしか学べなかった。三十代のころ、ぼくにもこんな経験がある。ぼくは、二十世紀に作られたアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲『コルコヴァード』をある年下の女性に聞かせていた。「静かな夜、星も皆静か」――彼女が眼を丸くして質問した。「星って、うるさいものだったの?」
- 作者: ロバート・チャールズウィルスン,Robert Charles Wilson,茂木健
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一方で地球の大多数の人々は「終わり」を知ったことで迷走を続ける。病に冒されながらも計画遂行に邁進する男、終末運動に身を投じる女性。途中途中に挿入される4×10^9年、「すべてが終わったそのあと」 巨星化した太陽のもとで人類は何を見るのか。そして「スピン」が生じた理由とは。
時間の異常というものはテーマ的には昔からあるが、一億倍というのはやっぱり半端ない。あまりに時間の差がありすぎるせいで、科学者を地球外に連れ出してカンヅメにし、救済計画を考えさせるなんて使い方すらできない(!) しかしテラフォーミングにとっては好都合。火星では一気に温度が上昇、植物が生え(あくまで地球視点)、巨大河川沿いに文明が誕生する。これだけのスケールなのに(ベアとかのやりがちな)混乱しそうな数の登場人物が複数視点で進めるブロックバスター・ノベルではなく、その一方で日本的なセカイ系にならない点は興味深いと思う。そして下巻に入り、火星からの「異質な」訪問者を迎えたあたりで起こるまさかのどんでん返し、新たなる「終りの始まり」、そして三人それぞれの行く末。いわゆるガジェットとアイデアだけが話を引っ張っていく「茶筒SF」となりそうなところを、中心となる3人の視点を欠かさないことで払拭している。「スピン」のできた理由に関しても納得の出来。まさかワナでも「別目的」でもないとはな!
ちょっと気になったところは前回の『遠すぎた星』もそうだったが、そろそろ古典SFというのは現代のSFにおいてすら下手するとギャグにしかならないのだろうか、ということ。これからエイリアンと戦うのに『終わりなき戦い』読むんじゃねぇ!! 現地の火星人に「彼の火星にはオハイオを思い出します」と言われてしまう某年代記 いや、ぶっちゃけるなー!!(何)