杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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 ロバート・A・ハインライン 「ルナ・ゲートの彼方」

ルナ・ゲートの彼方 (創元推理文庫)

ルナ・ゲートの彼方 (創元推理文庫)

 ところが知性は、解決のないところに解決を見出すことができる。かつて、ある心理学者たちが、一匹のサルをカギのかかった部屋に入れ、脱出の方法を四つだけ用意しておいた。そうしてひそかに、四つのうち、どの方法を見つけ出すかを観察した。
 サルは第五の方法で脱出した。

ワープシステムで未開の惑星に送り込まれ、期間内生き延びれば合格。単位を落とせない主人公は親の反対を押し切って仲間とともにサバイバルコース最後の試験・上級サバイバルテストへ志願する。到着から死人が出るわ装備をなくすわと散々な目にあう彼だったが、本当の恐怖はそれらではなかった。


仲間同士の対立や奪い合いはあくまで余興。社会成立が第一のキモ。このあたりは革命の発生をステップごとに解説してくれる初心者向け独立戦争指導書こと「月は無慈悲な夜の女王」と似ているようにも思う。もちろんストーリーテリングはいつも通りに素晴らしい。前述の「第五の方法」としてのワープシステム発見譚とか、クラークだったらそれだけで話にして終ってしまいそうだぞ!


ではもうひとつのキモは何か、というとやっぱり最後になって来るどんでん返しだろう。普通こんなことしたら心折れちゃうよ。子供に容赦なくこんな物語読ませちゃうハインラインあんた凄いよ。巻末にも描かれてるが、こういう話をやる場合に無事帰還するだけで終わらせるのが日本、結末をこうした上で子供に読ませちゃうのがアメリカなんだなぁとつくづく感心してしまう。でも、周囲から見れば無駄だったかもしれないけど他では絶対得られない成長はしてるよね?