杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

ぼくのトリガが誰かを殺す 「スカイ・クロラ イノセン・テイセス」

昨年発売で気になっていたスカイ・クロラのゲーム化であるwiiソフト「スカイ・クロラ イノセン・テイセス」を今更ながら手に入れたのでレビューしてみる
小説、映画ならびにゲームの核心に一部触れる場合があるので注意。あと、本項目内でのACは「エースコンバット」のほうを差す*1
画像もあるので注意(wiiからビデオへ、その後家でキャプチャしたもの 画質はお察しください)

スカイ・クロラ イノセン・テイセス - Wii

スカイ・クロラ イノセン・テイセス - Wii

ゲーム制作はバンダイナムコゲームスのPROJECT ACES、アニメパートはXEBEC*2

ずばりストーリィは時系列順でいちばん最初の「ナ・バ・テア」よりも前。恒久平和が実現し、戦争はもはや見世物と化していたとある世界。そしてまだ大人たちが戦っていたころ、主人公の隊にキルドレが試験配備されてくる・・・という風に始まる。ミッション2では市街地上区での戦闘を無頓着に実況するTVレポータがいたりして、映画以上に「商業としての戦争」をやってる感じが出ている。企業同士の戦争という設定だがノリはAC3やアーマードコアというよりバーチャロンの「限定戦争」に近い。しかし、キルドレの登場で「平和を再確認するための馴れ合いの戦争」は姿を変え始める。


カイダ<<俺たちは相手が憎くて、 戦っているんじゃない!>>
ウクモリ<<でも、これは“戦争”なんだ。 それでは、地上にいる人達は納得しない>>
カイダ<<黙れ! 地上に降りれば同じ……、 パイロット同士だろ?>>
ウクモリ<<空で会えば、敵です。 ……ほら、後ろ来てますよ>>
カイダ<<ちっ……>>


ヌンチャク操作は文字通り「狙う」ことに特化しているわりに細かい挙動には向いていないが、強制搭乗の泉流みたいなアレな機体*3でなければそこまで苦労はしないと思う。なにより「僕のこの手がトリガを引く」ことに重点を置いているあたりは評価したい。今でも射撃がBボタンもしくは□ボタンのゲームは多いわけで。あ、wiiリモコンのBはちゃんとトリガでしたな。
機銃の補正はかなり強力で、ヘッドオン(相対)から6機連続撃墜という旧来のACでのミサイルも真っ青な戦果を出せたりする。それ以外気づいた点だと、十字キー横がヨー・上下がロックオン対象切り替えなのでどちらかをやろうとして誤爆することが多い。敵の挙動も変わるとのことなのでノーマル操作の方がお勧めか?ターゲット切り替えが誤爆しにくいのはクラコンらしいのだが手元にないので未確認。視点はちゃんと後方・全周・コックピットの三種がある。

主兵装が機銃なため、「タクティカル・マヌーヴァ・システム」通称TMCとスティック&ボタン一つで始動するマニュアルマヌーヴァが追加されている。前者は相手の一定距離内にとどまることができればゲージがたまり、俯瞰視点に移行して全三段階の特殊機動を出し、敵の背後を自動で取るもの。後者はバレルロール、インメルマンといった複数の基礎機動が出る。どういう状況でも高速で出るので面倒臭がらず使っていきたい。TMCは次々敵を落としていけるので乱戦向き。エリア88で「奴ほどの腕だと乱戦になるほど有利だ」という表現があったがそれを地で行く展開になる。泉流でストールターンして後ろを取り直すとかもはや別の機体に見えるんだが。レベル3発動時のエンジンの咆哮と排気は必見。

今度発売される米国からの刺客「Tom Clancy's H.A.W.X.」にも俯瞰視点に切り替わる特殊機動モードがあるそうだが、こちらはコンピュータの支援を切り、リミッタ解除を行って超機動を可能にするもの。見た目は似てるが自分が介入できる具合は違う。これもアメさんとの考え方の違いだろうか

H.A.W.X(ホークス) - Xbox360

H.A.W.X(ホークス) - Xbox360

全体としてみれば「エスコンにあらざるエスコン」としてはまぁ満足の出来。あんまり意識しすぎて「なんだよACっぽくない」というのは筋違いである。谷の高度制限ミッションや機種制限ミッションはあっても空中給油や着陸操作・トンネルミッションはないし。…まぁ、購買層やヌンチャク操作を考えると本作にトンネルなんかつけたりすればAC3のジオフロント・パス*4、AC5の段違い平行棒以上に恐ろしい難易度になるだろう。削って正解。

ただ後半にはヌンチャクが汗ばむほど激しい空戦が繰り広げられるわけで、ポエティックな文章で綴られる森博嗣のファンにはどう取られるのか。プレイしているのを見た既読者には「ちょっと激しすぎじゃね?」という声をもらったのでちと気になるところではある。あとPS2時代のACベースなのか地上がちょっと寂しい。「ダウン・ツ・ヘヴン」にあった市街空中戦とかできたら良かったんだが
展開は原作以上にダークで「ひどい」(褒め言葉)。戦場の主役はキルドレへと変わり、上の人間は陰謀を巡らし、頼りになる仲間は次々戦死する。挙句の果てに戦場に残った大人はまとめて「在庫処分」を食らい、納得がいかない仲間同士で殺し合いを演じることに。クロラ世界のゲームだからこそ許される超展開。ここから始める人にはふざけんなーとなりそうな予感。

覚えておけ、チータ! いずれ、
お前たちは、この空から追い出される
その老いゆく体で、いつまで飛び続けられるか……
せいぜい足掻くがいい!

そしてストーリィの最後のムービー最後の一言で明かされる事実。そうか、俺はこれからも子供を殺し続けるのか。ゲーム故のエゲつない後味。たまらんねぇ。なんてったって主人公のコールサインは最初が山猫こと「リンクス」、のちにネコ科つながりで改名して黒猫、もとい「チータ」だからな!!あと、原作を読み込んでる人はオリシナの機体のエンブレムを見てみよう。あることに気がつくはず*5。また初代基地司令のカヤバ*6は「『彼』の古い友人」として3巻「ダウン・ツ・ヘヴン」にも登場する。原作とのつながりを意識したつくりは非常に丁寧。また森博嗣作品を知ってる人にはわかるネタが他にもいくつか隠されているとかなんとか。
 映画の三ツ矢は色白な「黄色の4」似だったけど、このムービーの「彼」は13に似てるよね(しつこい)

あと、原作の雰囲気自体がACシリーズ第三作、佐藤大監修でSF系・ストーリィ性重視の作品「エースコンバット3」に似ている。AC3は「ゲーム的ループ」というものにある解釈を持ってきて、結果としてかなり議論が分かれる作品になっているが、そのへんを知っているとAC+スカイ・クロラとはよく考えたもんだと個人的には思う。空に憧れる不思議ちゃんとかクーデターとか「明らかに飛行機ではありえない」未確認機動物体とか。まぁ、自分もあのラストが完全に納得いくものではないんだが。SF設定に違和感がなければおすすめ。

エースコンバット3 エレクトロスフィア PlayStation the Best

エースコンバット3 エレクトロスフィア PlayStation the Best

機体はトラクタ・串型*7・プッシャ、高速・高機動・重武装・重装甲と一長一短特徴のあるものをロストック・ラウテルン双方そろえている。設計思想的にロストック=枢軸国側、ラウテルン=連合国側っぽくまとまっているようだ。それにしたってラウテルンの英国面への侵されっぷりは異常だぜ!(何) 映画の主役機・散香マークBの前身である散香マーク2がジャケット機&ストーリィの中心だが、ゲーム後キルドレが主力となる過程で(大人が乗らないし)小型化・高機動化したと考えていいのだろう。ただ映画に出てきた双発・前進翼の異形の機体「染赤」は出てこない。
 ちなみに自分は死んだ仲間達がいたたまれなかったので意地の翠芽*8クリア。べつに散香が嫌いというわけじゃないんだが何となく。でも、ラストのあいつのあの機動を経験すると「彼」がトラクタ式に乗って子供虐待虐殺を続けている理由が邪推できるというもんだ(ぇー 単機で小細工なし という点を考えるとAC5の伝統のベルカ式魔法空軍やACZEROの相棒より強い歴代最強のエースなのでは。

ACにかならず一つは登場する超兵器はこちらでも顕在だが、今回登場の戦略兵器ウルフラムはちょっとジブリ調。スカイクロラ世界の技術レベルは第二次大戦ぐらいなので、主兵装が弾道ミサイルや電磁砲・光学兵器というわけにはいかないだろうし、今までのような巨人機といってもB-29B-36、あるいはYB-35/YB-49が限界。それに積める兵器*9も限られていることを考えればあれぐらいにしないと無理か。おまけと言ってはなんだが乗ってる人もムスカ調でいい具合に壊れている。
そうそう、昨年のブログでは映画の方に触れていませんでしたな。「押井守も年を取った」 これで十分だと思います(ぇ
…スポンサの意向で大規模作戦中断とかナシですよまったく。そうでなくても「やりたいことは分かるんだけどそこじゃない」というところが多いので参ってしまう。音楽と戦闘は最高なんですがね。サントラ欲しい。
ちなみに、映画のほうを「Wii用フライトシューティングゲームソフトの世界観を観客に体感させようとするタイアップ商法」だとか言ってる勘違いな人はどーにかなってほしいところ。あんたそれでも映画評論家か?そもそも『ゲーム的ループ』とクロラ世界の違い分かってるか?ちゃんと復習しろよ。詳しくはこのへんとか参照。他にもスゴイことをのたまっているらしい。
http://hakaiya.web.infoseek.co.jp/html/2008/20080824_1.html


結論:
AC3好きなら買い ただしwiiで他に欲しいソフトがあればだが。
原作ファンも買い 映画から入った人はまず原作をちょっとは(最低「ナ・バ・テア」まで)読むべし
そしてPROJECT ACESにひとこと
「早くACE COMBAT 3 エレクトロスフィア 完全版を作る作業に戻るんだ!!」
劇場版ACもよろしく!(ウクモリ「まだ言ってるよ…」)
(ちゃあしう)

*1:エースコンバットアーマードコア・アーケード・公共広告機構・交流電源・人間宇宙論… 多すぎやしないか?

*2:AC3では映画と同じくProduction I.G、AC04では静止画だったがスタジオ4℃

*3:ただでさえ重いのにVIPの直接護送任務ではさらに装甲は強化されて機銃も弱体化。簡便してくれ…

*4:こともあろうに地下都市の中に戦闘機で突入する。まぁ世の中には地下鉄に戦闘機で突っ込むゲームもあるのだが…

*5:ただしコールサイン「カイリ」とは戻ってこないタイプを意味するらしい 詳しくはhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0参照

*6:CVはパトの後藤喜一でおなじみ大林隆介

*7:ドルニエDo335プファイルのような前後にエンジンとプロペラを置く方式

*8:小説にも登場するゲーム中ではF4Uコルセア+フォッケウルフFW190似の初期機体 そして「彼」がある出来事の前に乗っていた機体

*9:B-36の搭載容量でやっと約39t。まさか初期の弾道ミサイルや巨大砲を積むわけにもいかんだろう