杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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神林長平 「アンブロークン・アロー 戦闘妖精・雪風」

アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風

アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風

雪風だ。人語で混乱し錯綜する空間を、雪風という戦闘知性体が有無を言わせずに、切り裂いていく

前作「グッドラック」で混乱の戦場へと離陸して行った電子戦術偵察機・FFR-41メイヴ 雪風。一機のジャム機を分析のため強制着陸させようとしたとき、何かが起こった。雪風、零、そして特殊戦はそれぞれ分断されてしまう。これもジャムの作戦なのか。一方自らジャムになると宣言した情報軍ロンバート大佐は地球人代表と見込んでリン・ジャクスンを指名して「手紙」でジャムからの正式な宣戦布告をする。戦闘妖精・雪風シリーズ第三作。
グッドラックからさらに一段階「神林作品」らしくなった本作。現実と「リアル」、言語と意識、存在と認識へとさらに踏み込んだ形となった。目の前でめまぐるしく変容し、隣の他者とすら食い違う世界。前にいるのはジャムの戦闘機か雪風か、通信に出ているのは本物かコピー人間か。信じられる物とは何なのか。零・ブッカー・クーリィ・エディス・桂城、それぞれがそれぞれの階梯で目の前の「リアル」と対決する。お馴染み「フムン」はあまり目立たなかったが、お約束の掛け合い/神林節(という言葉を作った人はいるんだろうか)は健在。「おお神よ」の台詞ひとつでなんでそこまで面白くなるんだか。あとはブッカー少佐から、「ややこしいものを量子論で説明して逃げようとするな」というありがたいお叱りの言葉もあるぞ。
アニメ化に関してはもうゴンゾが青色吐息なのでもう何を言っても、という感じがする*1が、第三部へ続くイマジネーションを提供したというだけでも大きく価値があったのではないだろうか。ジャムの特性を生かした「フェアリイ星の正体」設定はもっと知られてもいい気がする。まぁファンの新規開拓も出来たことなので今になってディスることはしないでおこう。 …ジャミーズ化された彼のことは許さないよ!(しつこい)
メカ的な話はグッドラック以降まぁオマケ程度だが、「タネ本*2にあったシークエンスを全部再現」してたという初代雪風でなぜか詳細な説明が無かった空中給油の細かい描写が登場したのが嬉しいところ。また前作でバンシーの自爆に巻き込まれたと思った『賢狼』わっちわっちFRX-99レイフも「損傷は受けたが顕在」ということで戦列に復帰。こいつもさりげなくうれしい。OVAでもいいところが無かったからな。
ラストは「戦闘を継続するために」ある偵察行動に出た雪風の予想外の邂逅が描かれる。ジャムへの意思をはっきり示す特殊戦、事情をあまり理解していない「地球」側と対照に独自行動を開始するリン・ジャクスン、はっきり言ってなんでもありになってきた異星体ジャム。果たしてこの戦いに終止符は打てるのか?…まぁなるべく次ぐらいで畳めるといいものだが。刮目して待て!
(ちゃあしう)

*1:というか、全巻揃えてまた見直すとまたいいところも見えてくる。その分3巻のような改悪点も目立つけれども

*2:雪風解析マニュアル参照。7〜80年代の近代航空戦をテーマにしたムック本だそうで