スタニスワフ・レム「泰平ヨンの航星日記」
豪胆な星間浪人は、四時間ものあいだ自分がじゃがいもと格闘していたと人から思われていると知るや、猛烈にむかっぱらをたてて、委員会にそういういやらしい中傷はとりさげろと詰め寄った。だが学者はその結論をいささかも変更する気はないと、つっぱねた。
泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF レ 1-11)
- 作者: スタニスワフ・レム,John Harris,深見弾,大野典宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/09/05
- メディア: 文庫
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レムの復刊その2のしかも改訳版。宇宙版ほら吹き男爵とも評される高名なる「宇宙探検家、泰平ヨン氏の航海日誌」の抜粋研究文章の一部、という設定の作品群。ただし初っ端から序文が改訂されてたり、そもそも文章がゴーストライターに書かれた贋作であるという説が出てきたり果ては機械執筆説まで出てくるメタっぷり。そして内部でも「SFで書けることは書き尽くした」と言うだけの事はある「真面目にアホな考察」を随所に見ることができる。機械独裁社会の話はひょもすると体制批判と取られそうな危ない話だがとんでもないオチが付くし、宗教や種々の学問の持つ無意味性への言及も皮肉たっぷり。時間加速・人体改造・人間伝送(データ化)といったおなじみガジェットを使った意外な話や「自分で宇宙を作った/歴史を作り直す」なんてスケールの大きな話もある。これだけ書いてれば確かにSFに限界を感じるというのもあるのかもしれない。そして最終章ではまさかのまたまたメタ展開。
ポーランド語でしか通じない洒落は英語を副次的に使うなどして翻訳したというだけあってまぁ良くこんな造語が作れるもんだというオンパレード。狗留伝竜(クルデル)とか蛮勇便衣流刑者同盟(バベル)とか別の頭痛がしてくるぞ。ポーランド語でどうなっているのか気になるところだがおそらく初心者で理解できるような代物じゃないんだろう。むぅぅ。レム的思考を翻訳できる言語とシステムの開発が早いか、原書で読めるようになるのが早いか。
おまけ
ヨンがロボットが支配する星に潜入したときの装備。
「バールです、倉庫を開けるための……武器にも使えます。ただしそれは最後の手段にしてください。」
ヨンの先祖が隠居のときに要求したのもバール。
地下室のドアの小さな窓を通して、ごく少量のパンと水のほかに、彼が要求するものが差し入れられた――十六年間、まったく同じもの――形と重さの違うバールを彼はたえず要求した。彼が要求したバールは三千二百十九本に達した。
どうやらヨン氏は先祖代々「バールのようなもの」使いのようだ。MIT卒の物理学者とガチでやり合えるんじゃないか。実際多くの星で生き抜いてるし。
…たまにしか持ち歩いていませんか そうですか
(ちゃあしう)