杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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ストルガツキー兄弟「収容所惑星」

収容所惑星 (ハヤカワ文庫SF)

収容所惑星 (ハヤカワ文庫SF)

がなるなよ。もううんざりだ。なにもおれにあたりちらすことはないんだ。
責任はそっちにあるんだ。あんたたちの世界は寝すごしてしまって、最後の獣みたいに、
人間性を失ってしまったんだ。マスサラクシ!いまになって、おれにどうしろというんだ!

惑星調査員が事故で墜落した惑星は専制君主によって支配された奇妙な全体主義社会だった。
故郷に帰る手段も通信手段も失ったまま軍隊に拘束された彼はこの星の悲惨な状況を知り、
体制打破のために軍人・テロリスト・囚人・政治家とあれこれ立場を変えながら奮闘する
SFディストピア小説


 なんというか、これ当時のソ連で出せたのってかなり奇跡じゃない?とおもうぐらい
体制への皮肉がこめられてる。あとは延々とブラックジョークと欝展開。
ただしいろいろ努力してきた主人公の前に黒幕が現れ、「じゃあアンタはどうするんだ!」
とひっくり返されるあたりは考えさせられるものがある。このへんはなんか某
「主人公がいつの間にか入れ替わっちゃった」アニメにも言える事かも。
進歩の是非を問うことは兄弟の毎回作品のテーマになっていて、レムは「進歩歴史哲学」と
呼んでいたとか。ある意味ではウエルズ的「SF状況を用いた寓話」という要素が大きいのかも
しれない。ただ、流石に長い。笑いの勢いがないと途中でダレるかも。
まぁ、変に高尚なくせにブラックなギャグはイギリスやアメリカのものに比べて妙に
印象に残る。流石はロシア的倒置法*1アネクドートの国である。


兄弟は既に片方お亡くなりになってるそうだが、代表作「ストーカー」はあのタルコフスキー
で映画化され、最近だと「S.T.A.L.K.E.R」というFPSにもなってる(!)し、これも映画化の
話があるそうな。できるのか?

*1:一発ネタ:アメリカでは科学が夢を現実にする ソビエトロシアでは現実が科学を夢にする!