杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

南井大介「ピクシー・ワークス」

「ガム持ってる?」
「はぁ?」
「あるよ、一枚なら」
「頂戴、後で返す」直子は眼を瞬かせた。そしてすぐに芹香同様悪戯っぽく笑う。芹香がイェーガーを演じるサム・シェパードを気取っていると分かったからだ。実に芹香らしいと思う。
(中略)
「モップの柄も持ってくるんだったかなぁ」

黒く塗って機銃替わりに突き出すのは「パールハーバー」です。お間違いなく。

ピクシー・ワークス (電撃文庫)

ピクシー・ワークス (電撃文庫)

「環太平洋戦争」という言葉が出てきた時点でピキーンと頭の中でロックオン警告音が鳴ったが見事に大正解だったぜ。トラブルメーカーな天文部メンバたちはあるものの修理を依頼される。それは大戦中のジェット無人戦闘機だった。依頼者は元軍人。ある目的のために「帝都の上にこいつを飛ばしたい」というのだが・・・
というわけで女子高生が戦闘機を修理して空を自由に飛ぼう、という単純な話かと思わせて、実は「パトレイバーな劇場犯罪の作り方」というなかなか凝った構成の話。そして機体―戦争で活躍した無人機の修理が進む中、内部に封印されていたはずの「彼女」が復活する。
パトレイバーエースコンバット雪風+粋なおしゃべりAI÷2といった感じで漢(ジェンダーのほうに非ず)の大好きなものをこれまでもかと盛り込んだ特盛定食。「だが、それがいい!」 趣味全開それゆえに小気味よくて読後感がよい。人工知能とライバル(?)もそこまで奇はてらってないが面白いキャラだ。高G機動中には喋れない?高校生なのに詳しすぎ?前者はお約束、後者は戦後教育改革の賜物ということで。
ただ、最初に上がってくる迎撃のイーグルプラスは元そのまんまなので、サイレントイーグルかFX(機種不明)ぐらいにとどめておいた方が良かったような気もしなくはない。流石にウィザードとプリーストではないが*1
爺さんの思いと矛盾をはらみながら成立している戦後社会、未だに硬直した思考系統の日本「軍」といった考えさせられる部分もある。裏で行われている政治的取引と本世界のはらむ謎は続編に期待 だろうか。


パトレイバー2関連で好きな物をひとつ 音楽はAC3サイレントラインから。「だからっ!遅すぎたと言っているんだっ!!」

不思議なくらいしっくりくる

おまけ

すこしに内部に言及
「危機に陥りながら低空で一か八かのスプリットSをやり、垂直上昇」と言うのは第三次中東戦争中にミグ21(エジプト軍機)でやった例があるとヒストリーチャンネルで言っていた。ただ、そんな悠長なことをやっていたために低空で速度が出ず、速攻で機銃により撃墜されたそうな。そんな曲芸めったにないんだから見逃してやれよイスラエル人。
(ちゃあしう)

*1:元ネタのF-15S/MTD、F-15ACTIVEは現実では単なるNASAの実験機だったが、劇パト2・エスコン「ぼくらの」国防軍などフィクションでは非常に人気。キット化するのは今しかないんじゃないかな