杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

小川一水 「天冥の標1 メニー・メニー・シープ」&「2 救世群」

「正確な計測、のためには、ずっと座ったまま静止している必要、があります」
「静止すればいいじゃないか」
「それでは洗濯、ができません」

人類が植民してはや300年が経過した惑星「メニー・メニー・シープ」。最初の宇宙船の着陸失敗が響いて一人の「領主」が全てを握るこの植民地だったが、領主の電力供給制限、謎の疫病の流行という事態に市民の不満は募る一方だった。医師であるカドムは疫病の正体を追う過程で謎の怪物と遭遇するのだが。やがて不満は領主打倒の武装闘争へと動き始める。

惑星の持つエキゾチックな情景と、故障した宇宙船から脱出したという制限のために発達した現実とはちょこっと違うテクノロジー、そして異種族が混在する世界で始まる「革命」のゆくえ、というわけでいつも通り安心して読める(で、実際面白い)…とおもったら最後でえぇ〜っ!となってしまうこの展開。続きが非常に気になる。今までのところ鍵を握る6種族のうちバリバリ活躍が3と言った感じ。果たして以後どう出てくるのか。内蔵電源までつけて「祈りの海」ほどではないにせよ海に依存する生活への適応を図った「海の一統」*1の物語がどこかへ行ってしまわないかだけが気がかり。
キャラ立ちではサド女司令官が印象深いか。使えない男に対する処遇はちょっと懐かしい印象。
台詞は宇宙船に乗っていた太古のお手伝いロボ*2のもの。「恋人たち」を含めて本作は気が効くAIが多いな。って一人(?)事態を上から見ている曲者がいるのだが。こいつが何を「させたい」のかも気になるところである。


そして今年発売されたのがこちら

そこで、一冊の日誌に五千ドルの懸賞金がつけられることになった。
警察と町の人間がこぞって道端の紙くずやゴミ箱を漁りまわるという、前代未聞の大騒ぎがくり広げられ、
警察署にはでっち上げの適当なノートを手にした人間が押し寄せた。

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

すでに公開されている2巻のあらすじをみたらなぜか舞台が現代。いったいこれは...?と思っていたが、世界がメニー・メニー・シープへと移る前の話。パラオで突如発生したパンデミック。その感染拡大阻止と原因救命に尽力を尽くす人々と感染により運命を変えられていく人々がメインとなる。
近年のSARSや新型の流行でも注目された「感染者の経路」の把握や世界規模の情報共有、そして今だからこそ難しい隔離の実態と言うのが眼をそらすことなく描かれる。パンデミックと言うのが人災に「なりうる」可能性や、感染してしまったがゆえに受けてしまう扱い・対処については「復活の日」から大分状況が違うものだというのを感じさせる。バイオテロで自転車に乗ってえいこらしょ、という例の映画の脚本家は10回読め。
今回は希望30%分(もちっとあるか)ぐらいで終了。舞台に並ぶ顔見せもだいぶ進んできたところだが、次巻でもまだ半分にいかない状況からどこへ話を動かすのか眼を離せない。最後の方でちょっと谷甲州「パンドラ」っぽいものを示唆しているが、まさか地球ではその後…??
パンドラ1 (ハヤカワ文庫JA)

パンドラ1 (ハヤカワ文庫JA)

そういやパンデミックな映画が去年あったらしいがどういう感じだったんだろうな。現実とリンクするから機内で上映中止(普通逆じゃね?)とかお隣の国で上映される際はバッドエンドで終わったとか色々聞くものだが果たして。
(ちゃあしう)

*1:通常は水中呼吸で用いるが、自分の出力でコイルガンを駆動したりもできる。外部電源でビリビリ肉体鍛錬、水中呼吸が可能だから水から攻める、と見せかけたひっかけ戦略という面白い使い方も

*2:昔風なら文化女中器、90〜ゼロ年代ならメイドロボ、新訳するならおそうじガール この違いはなんだ