杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

追悼:アーサー・C・クラーク

SF作家にして科学評論家、そして初期からのコンピューターネットの使い手にして通信衛星という概念をはじめてまとまった形で発表した男、「サー」アーサー・チャールズ・クラーク、90歳にて死去。科学と人類の未来を見続けた偉大な巨人であります。
小学校のとき初めて読んだのは「海底牧場」のジュヴナイル版「海底パトロール」。以来あらゆるところを駆けずり回って作品を探したもの。インド洋津波のときもどれだけ心配したことか。しかしもういい年ではありました。自分がこんな方面に進んだきっかけになった人物のひとりでもあります。ぜひ異星の生命体をご自分の手で見つけて可能ならこちらに報告していただきたいです。


しかし人類は大きな宿題を抱えたことになる。いくら彼でも「歴史のひとこま」(『前哨』収録)みたいなENDを笑って許してはくれないだろう。我々はクラークの期待にこたえて人類の発展を続けさせねばなるまい。


せっかくなのでおすすめ短編を挙げてみる。(長編だと「宇宙のランデヴー」(続編はNG)か2010年かで迷う。「幼年期」に会う前に「2001年宇宙の旅」を小説で読んでしまったのがちょっと緩衝材として響いてるかもしれない。とりあえず新訳版を手に入れて読みたい)
 基本として抑えておきたいのは「太陽系最後の日」(「明日にとどく」収録)、「前哨」&「地球への遠征」(『前哨』収録)、「太陽からの風」。もちろん「90億の神の御名」や『白鹿亭奇譚』収録作みたいな珍品も忘れたくないところ。

天の向こう側 (ハヤカワ文庫SF)

天の向こう側 (ハヤカワ文庫SF)

こちらは「90億の神の御名」や「星」を収録。比較的最近復刊。「90億の神の御名」については無い知恵絞って考えてみた駄文があるので暇な方はどうぞ
>「「90億の神の御名」の数学 〜冗談ではない!クラーク先生〜 」
http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/20080427#1209320692


・「木星第五衛星」(『明日にとどく』収録)
ランデヴーの原型?木星の第五衛星が今は滅びた異星人が残した宇宙船であることが分かり、調査に赴く探検隊が「偶然」出くわしたマスコミの取材と出くわしてひと悶着。使ってる物理の法則はヒジョーにシンプルながら見事にだまされる、その感覚がナイス。


・「かくれんぼ」(『前哨』収録)
最新鋭宇宙巡洋艦に追われる一人の男は火星の衛星フォボスに宇宙服ひとつで逃げ込む。果たして勝ち目はあるのか?科学的に考えるとほとんどのSF宇宙戦闘艦が戦闘に向かない、という恐るべき結論が出る小粒ながらぴりりと辛いハードSFショートショート


・「ドッグ・スター」(『10の世界の物語』収録)
天文学者と犬の摩訶不思議な関係を描いた犬SF。あまり「らしく」ないファンタジーだが犬好きならたまるまい。
とある短編集ではこれと「幽霊宇宙服」がセットになっていた。なぜセットなのか?それは「幽霊」のネタバレになるので読んでのお楽しみということで


・「軍拡競争」&「優越性」(前者は『白鹿亭奇譚』、後者は『前哨』)
科学で勝るものが必ずしも賢いとはいえない。とくに軍事部門では。別々の話ではあるがセットで考えるとより面白いかも。前者はドラマの特撮技師の陥ったジレンマを、後者は敗戦国の軍事裁判で明かされる驚愕の事実を描く。


・「破談の限界」(『前哨』収録)
方程式もの。クラークは人間描写が弱い、と常々言われるが「冷たい方程式」よりはサスペンスに寄ったこちらのほうがいいと思ってる。え、貴様はホモ・サピエンスの資格がない?それは「冴えてる」方です確か。


・「十字軍」(『太陽からの風』収録)
高温環境で生きる生命体というとマグマサンダイバーのプラズマ生命体なんかが代表だが*1、逆に冷たいところといえばニーヴンの奴*2とこれ。読んで字のごとく「薄ら寒い」結論がアッサリ出るのもまた短編のいいところ。けっこうこの人も人類滅ぼしてます


・「メデューサとの出会い」(『太陽からの風』収録)
事故ですべてを失った男は機械の体で謎を秘めた巨大惑星、木星へ挑む。サイボーグテーマと宇宙探検、そして二重のファーストコンタクトを描く。木星型のガス惑星探査もこれ以来おなじみの課題となった。


・「彗星の中へ」(『10の世界の物語』収録)
バカ度MAX。ただバカ話を集めたというなら『白鹿亭奇譚』があるが、これは真面目に御馬鹿をやるという点、そして日本人のアレが宇宙飛行士たち絶体絶命のピンチを救うという点がスゴイ。ヤスミンが人生をアレで計算したのも本作があってこそだろう。


実のところいっぱいある+早川で出ている短編集はほぼ年代順なので今はちょっといただけないものも多いのだが・・・それでもワンアイデアでここまで人を動かせるものがあるのは彼ならでは。


本人による「ベストっぽい」短編集としては新潮が出していた『太陽系オデッセイ』がある。これのすごいところは「太陽系最後の日」「破談の限界」「前哨」「木星第五衛星」「太陽からの風」そして「メデューサとの出会い」と幼年期の原型となった「守護天使」がまとめて読める*3ことだ!! しかし再販は難しいだろうなぁ。最近ぜんぜんSF出てないし。

太陽系オデッセイ (新潮文庫)

太陽系オデッセイ (新潮文庫)

とりあえず早川はもっと宣伝しよう。この21世紀を外挿した偉人を。
(ちゃあしう)

*1:クラークも「地底の火」で地底に住む特殊生物を想像している

*2:「いちばん寒い場所」「待ちぼうけ」に登場

*3:ただし「遥かなる地球の歌」が映画のあらすじみたいに改悪されてたりする