杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

ナノテクの寵児は機械仕掛けの神の夢を見るか? レビュー「Deus Ex」

久々に骨太なRPGをやったので、同じ系統でSF色に程よく染まったRPGFPSをご紹介。

「コンピュータによる監視からは恐れや服従は生まれても尊敬は生まれない」
「神々も観察や評価や罰から生まれた幻影に過ぎません
 神に対するその他の感情というのは二次的なものです」
「カメラを通して覗いているソフトウェアを崇拝する者などいない」
「人間という生物は常に何かを崇拝してきました 初めは神 そして他人の観察と評価から生まれる名声
 その次は観察と評価が常にどこにでもあるようにと人間自身が作り出した自己認識システムなのです」
「お前は人間の自由に対する思いを過小評価している」
「人間は評価されることを望み その欲求がなかったらグループの結束など有り得ないのです 文明の成り立ちがそれを示しています」


2052年、テクノロジーと混沌の未来。巷に流行するは高致死性ウイルス「グレイデス」。ワクチン「アンブロシア」は富裕層にしか出回らず、手に入れられない人々は武器を手に取り、自由の女神爆破*1を筆頭に各地でテロを起こしている。主人公JC Dentonは国連の対テロ部隊UNATCOに所属する最新鋭のナノテク装備に身を固めたエージェント。同じくエージェントの双子の兄Paulとともにテロリストに奪取されたアンブロシアを追ってニューヨーク・香港・パリを巡るうちに、彼は世界を動かす陰謀へと巻き込まれていく。倫理観も情報の流れも、そして「肉体」までもが変化してゆくこの世界で、君は何を知るのか。

デウスエクス 完全日本語版

デウスエクス 完全日本語版

Deus Ex Game of the Year Edition (輸入版)

Deus Ex Game of the Year Edition (輸入版)

ちょいとばかし古いうえ日本語版はかなり入手困難になってしまっているPC用ステルス系サイバーパンクADV/RPGFPS。ただし英語だけどSteamで手に入れることができる。しかも昔日本語版を作ったアイドスが出していたパッチを当てるとどのVerも日本語化されるそうな。画面はやや暗めなので、プレイ環境によっては見えにくいかも。


生体改造・人工知能・ネットワーク社会といったサイバーパンク要素をお飾りではなくゲーム性にしっかりと生かした本作。海底都市でヒャッホウな「バイオショック」とその系列の旧作「システムショック」の流れをくんだ、一方通行でないゲーム性をもつのが特徴。ハッキングやピッキング、EMPによる電子妨害、重火器による破壊と各場面で種々の選択肢を自分で選択できる。ストーリーは分かりやすさ重視のためリニアだが、ドア一つとっても火器でぶち破る・鍵を敵から拝借する・ピッキングする・キーパッドをハッキングする・セキュリティシステムをハックして開ける、EMPグレネードで電源を一時的に落とす、さらには騒ぎを起こして敵に開けてもらう、はたまた別のルートの換気口をくぐってドアは無視するといった複数の選択肢(だいたい前者から2〜3つづつ)がある。


主人公が使える行動は「スキル」と「オーギュメンテーション(Augs)」に左右される。スキルは文字通りの能力であり、種類別の武器の扱いやピッキング能力、さらに水泳能力などもこれに該当する。これらはRPG的な経験値により自分で好きな能力を拡張できる。中でもハッキング能力はカメラを切っておく、ドアを開けるだけでなく自動砲台や警備ロボットを乗っ取って敵のせん滅に利用することも可能。ご丁寧にもハッキングで使っているのはウィリアム・ギブスン作品でおなじみ氷破りこと「ICE Breaker*2」。ただし気がつけばATMを見つけては他人のアカウントから金を引き出して小銭を稼いでいる*3セコいエージェントがここにいる。お前はガキの頃のジョンコナーか。

 Augsはいわゆる生体改造技術。主人公は第二世代のNano Augsと呼ばれるサイボーグであり、これまでの第一世代サイボーグ:Mech Augsと違ってナノマシンの集合体・Nano Augumentation Canisterを体内に導入するだけで取り外し取りつけ等のパーツ交換なしに新機能を体へインストールできる。筋力強化による驚異的なジャンプ力や腕力、電磁パルスや有毒化学物質、弾丸への耐性強化、人の目に見えなくなる光学迷彩とロボットやカメラに効果がある対センサーステルス能力、さらには任意に発射でき、自爆でEMPを発生させて電子機器にダメージも与えられるスパイドローンの発射といった機能を追加できる。

FPS視点だと作動中の効果が絵で実感しにくいので、同じNano AugsのSimonsさんにご協力をいただいております。対人では無敵の火炎放射器もこのとおりバリアでノーダメージ。この後カウンターくらって真っ二つに。

他人が持ち上げられないコンテナを怪力で持ち上げて通路にバリケードを敷き、敵の巡回を封じ込める。驚異的ジャンプ力や積み上げたコンテナで窓/屋根裏から侵入する。ステルス迷彩ことクロークで堂々建物正面から侵入する。ナノマシンを空気中に散布し、敵のミサイルを発射直後に自爆させる。Augsは人間離れした能力でミッション遂行を支える。ミサイルを撃ってくる敵は少ないから、問答無用で火器が使えなくなり、格闘戦に持ち込ませるというほうが便利だったかもしれない。

実際には自分が登った後それを持ち上げて上に積めば済むので、必要なコンテナは2つで十分。グレネードを壁に設置してそれを足場にして登るなんて荒業もある。


Augsなしでもそれを補完するアイテムは用意されている。電子機器に致命的ダメージを与えるEMPグレネードに敵味方識別を妨害して敵の警備ロボットを味方にしてしまうスクランブルグレネード、使い捨て光学迷彩やボディーアーマーなど。これまでステルスキャラで育ててきたからあいつが倒せなくて詰む!という人でも安心。というか、実質「倒さないと先に進めなくなる」のは2人?しかもやり方によっては自ら手を下す必要がない。

戦闘の基本は銃撃戦だが、突っ込みすぎると死ぬくらいの難易度なので隠密行動が重要であり、音を立てずに相手を無力化するバールのようなもの、警棒、スタンガンや投げナイフ・相手をひるませるコショウ銃といった近距離向けの武器が充実している。もちろん拳銃・ライフル・狙撃銃に歩兵用ミサイルも存在。敵も一般人に毛の生えた程度のテロリストから、大型小型と多種多様な警備用botに内蔵武器満載のMech Augs、さらには遺伝子操作で誕生した生体兵器に、自分と同じシールドや光学迷彩などの能力を使いこなすNano Augsも登場。ステルスに徹してその場をやり過ごすか、それとも火力に物を言わせて撃退するか。はたまたNPCを呼んできたり敵Botを乗っ取って攻撃させるか。一般的FPSに比べると圧倒的に貧弱な主人公ゆえに頭を使う必要あり。

ストーリーでは、いわゆる「な、なんだってー!」な陰謀論が炸裂する。世界は昔から複数の組織が影の支配権を争ってきたのだ!サイバーパンクの時代にそれかよ!と最初は思うものの、時代を動かす影の力とそれに翻弄されてきた社会構造をトマス・アクィナスホッブス/トマス・ペインと振り返りながら、人類がなぜ始めから「統制」を必要としてきたかに対する考察を進めていく構成はうまくできている。誰かさんのおかげでめっきりお馴染みになった秘密結社イルミナティ・ファンタジーでもネタ元に使われるテンプル騎士団に加えて、懐かしのMJ12(マジェスティック・トゥエルヴ)が登場。プレイヤーを加えて未来の実権を握るための水面下の戦いが続く。そして創造主から独立した人工知能が、人間とは違う立場からの介入をもくろんでいる。

Deus Exの舞台の一つは香港。ここでのキーアイテムが香港を仕切る黒社会の抗争の火種となっている、ナノテクで切っても切っても自己先鋭化する刀・龍牙剣ことドラゴンズトゥースソード。日本語版では余計強化されているらしく、生身の人間に金庫、はては軍用サイボーグすら一刀両断するチート武器。 …なんで日本刀ベースじゃ無いんだ。というかサイバーパンクと言えばまず千葉シティだろJK。次こそ日系の怪しいバイオ企業を出してもらいたいものである。


各方面の文章&翻訳は本当に丁寧で、メールひとつとっても世界観というものが色々と伺い知れて面白い。ニュース記事や商品の小ネタもひねっている。また陰謀論がメインテーマというわけで本編内では無政府主義者の集会に巻き込まれてしまった男の悲喜劇を描くチェスタートン「木曜日だった男(木曜の男)」などが登場し、要所要所でその一部を読むことができる。電脳宗教もこういう作品ではおなじみだが、これが見つかる部屋ではヤクの傍らで男女が死んでいる ガクガクブルブル

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

「Jacob's shadow」は劇中の創作だそうだ。これは本作のmailから本、新聞記事までを担当した人のブログ
http://www.7crows.com/archives/2000/01/entry_39.html


重すぎる美麗グラフィックで有名となったFPS・CRYSIS*4をやったら、これってDeus Exじゃね?と思ってしまった。

Crysis 日本語版

Crysis 日本語版

マキシマムアーマー=Ballstic Protection
マキシマムストレングス=Muscle & Speed(ジャンプ力はスピード向上でアップする)
マキシマムスピード=Speed Enhancement
クロークエンゲージ=Cloak(Deus Exでは人間向けとセンサ向けの二種あり 併用も可能)
銃器改造=MOD装着(ただしDeus Exでは一度取り付けると取り外し不可)

全部JCには朝飯前だな。軍人のノーマッド君はパワードスーツで外付け、対テロエージェントのJCはAugmentationで内蔵という違いはあるが。エネルギー消費は大きくなるものの、CRYSISと違って複数の作用を同時に作動できるのは地味に便利。でもCrysisと違ってそれほど高速移動や大ジャンプは重視されないか。「マトリックス」後のゲーム*5なのでそのあたりは必要かなとも思ったけれども。発売から8年以上たつ今でもMODでバレットタイムやポータル等色々やってる人がいるそうだ。


第一世代Mech Augsの同僚 AnnaとGunther(ガンター?ギュンター?)。この陸自レンジャー特有の視覚素子はバトー?前者は機動力で、後者は第火力で攻めるタイプ。チュートリアルでは手取り足とり教えてくれる彼らだが、次世代の登場には色々と思うところがあるらしい。兄のPaulは自分の容姿をカスタマイズしてもちゃんと主人公JCと同じ顔。たとえテロリスト相手でも人殺しをしない優しい捜査官として有名だそうだが、流れ弾が当たると本気で殺しにかかってくるので注意。看板に偽りあり。


「トイレが作り込んであるゲームは良いゲーム」って誰のセリフだったか。当然のように水が流れる。作り込みはあくまで当時レベルだが、本部女子トイレに侵入すると中の人には「How unprofessional...」と呆れられ、上司にも釘を刺される。いらないところで芸が細かい。

矛盾に満ちたこの世の中を正すことはできるのか。ある者は人類は一からやり直さなければ無理だといい、またある物はやり方さえ正しければ今からでも人は変えてゆけるという。そして人工知能は語りかける。いまこそ人間と人工知能の垣根を越えた「究極の存在」を持って人類を導かねばならぬ、と… 主人公JCは最後の地、エリア51でこの世を動かす「見えざる手」を前に決断を迫られる。それが最終的にタイトルである機械仕掛けの神「Deus Ex Machina」へとつながり収斂する。サイバーパンク世代に対するゲームによる一つの答え、プレーヤーの決断がもたらす海外ゼロ年代幼年期の終わり、それがDeus Exだ。

ただ、通常ミッションでは倒した数や反応によって会話や入手アイテムは変わってくるのだが、エンディングだけは最終ミッションで何をするかのみで三分岐する。それまでの行動で変わる部分(殺害数や人助けをどれだけしてるか 体の改造具合など)もちょっとは欲しかったかも。続編のデウスエクス2「インビジブル・ウォー」は旧xboxのみ日本語版あり。ただしけっこう賛否が分かれたようだ。噂によるとラストに1以上に恐ろしいどんでん返しがあるという。…シリーシックスオーには対応してないんだよね。プンスカプスンカ。3は登場が迫っているらしい。なんでもMech Augs登場当初の世界を描くとか。今度こそ日本企業は出るんだろうな?(しつこい)

デウスエクス:インビジブルウォー【CEROレーティング「Z」】

デウスエクス:インビジブルウォー【CEROレーティング「Z」】


古いゲームではあるが、本作は魅力的なストーリーとゲーム性を持つ。単なる「攻殻風味」より一層ケレン味のあるSF物をお探しの方にはお勧め。
(ちゃあしう)

*1:このゲームが出たのは2000年6月 つまりあの「前」である

*2:ICEとはIntrusion Countermeasure Electronics:侵入対抗電子機器 いわゆる元祖攻性防壁

*3:ちなみに一回ハッキングした端末はセキュリティが強化されて使用不可になる 下ろし放題にはならない

*4:「バナナを輸出する台湾の東に位置する北朝鮮領(?!)」にナノテクの粋を集めた最新鋭装備で潜入する「自分がプレデター」なステルス系FPSだが、後半は自分がプレデターされる超SF展開になる

*5:「素子は縦の移動」(押井守)とはよく言ったものだと思う 最近はF.E.A.Rみたいにすわ格ゲーというFPSも多い