杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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シャトル・フィクションズ 第四回 スペース・レスキュー119 「亜宇宙漂流」「SF/スターフライト・ワン」

スペースシャトルになぜか人命救助が任されることもある。スペースシャトルの登場は(実際にはちっともそうなっていないが)宇宙旅行の可能性を一部に掲示し、実際にNASAではカーゴベイを大量輸送用に改造したバリエーションを検討していたとされる。自分も昔の学研の図鑑「宇宙ロケット」でこいつが月往還船にドッキングしているイラストを見たことがある。
>Space Future - The Future of Space Tourism
>http://www.spacefuture.com/archive/the_future_of_space_tourism.shtml
某氏なら「あんな成功率の宇宙船で観光なんぞ寒気がする」と毒を吐きそうだが、昔の話ですよ昔の話。
何はともあれ、シャトルの次には、スペースプレーンと呼ばれる「通常の空港から旅立ち、軌道まで上がって宇宙ステーションなどに人員を輸送、普通の空港に降りる」宇宙機が建造されると予想されていたので、これにより真の宇宙時代がくるものと目されていた*1。SF作品においては宇宙旅行でトラブル発生何ぞは日常茶飯事だが、シャトルの登場がそれを「近未来サスペンス」という新しい形に持っていくと予想されたのは想像に難くない。今回はそんな作品を紹介する。


鼻持ちならない地上の連中と襲ってくる乗客に板挟みになる少数の生き残り、という新機軸でベストセラーになった航空サスペンス『超音速漂流』で鳴らしたトマス・ブロック*2の2作目、『亜宇宙漂流』では新型超音速旅客機スター・ストリークが誤って軌道に乗るという事態に巻き込まれて救助を待つことになる。スター・ストリークには巡航用のエンジンの他に加速用のロケットエンジンが搭載されており、これが止まらなくなって軌道に乗ったというなかなか凄い設定。そんだけロケットがもつのなら、そのエンジンのみでスペースプレーンが作れるぞ。第1宇宙速度なめんな。誰か突っ込まなかったんだろうか。

亜宇宙漂流 (文春文庫 (275‐20))

亜宇宙漂流 (文春文庫 (275‐20))

このままでは大気圏に突入して燃え尽きるか、酸素が切れて全員死ぬことは目に見えている。予算も削減され、ピンチを迎えていたNASA長官はこれを好機と見て意気揚々とシャトルによる救出作戦を練る。しかも、テレビカメラ衛星でその様子を生中継!と余計なことまで始める。ところが、シャトルは発射台での事故で発射が不可能に。酸素欠乏、不安がやがて確信へ変わり、混乱してゆく乗客。無重量の生み出す罠で起こる事故。そして仕組まれた事故の疑惑。果たして悪意の宇宙空間に漂う彼らに帰還の道はあるのか?そしてこの事故の黒幕は誰か?
アクション風味よりも、どちらかといえば「技術者による陰謀の追求」いう要素が大きい小説。前作の「保険会社が航空会社とツルんでる」というのも凄かったがNASAが(真面目な)悪役というとあとは『カプリコン・1』ぐらいだろう。しかも、ここに出てくるシャトル打ち上げ失敗の原因、あろうことかコロンビア事故の原因と少々かぶるのだ。シャトル計画後の宇宙開発の閉塞もある意味では当たっている。
無重力ではヘアスタイルすら命にかかわるという特殊な状況や、姿勢制御エンジンが無い旅客機がどうやって軌道を変更するのか*3?といったアイデアは面白いものの、先ほど述べたように地上での謎解きメインで機内が少々盛り上がりに欠けるため航空サスペンスとしての出来はいまひとつ。前作が凄すぎたか?
同じトマス・ブロック作品なら『盗まれた空母』がお勧め。港でほこりを被っていた中古空母ヨークタウンが港からこつ然と姿を消した。博物館的にボロい爆撃機しか積んでいないこんなフネ、誰が欲しがる?一方イランでは、一隻の潜水艦が毒ガスを用いた残忍な手段で奪われる。そして中型旅客機DC-9は離陸直後に理不尽な要求を受ける。「海へ進路を取れ、さもなくば爆破する」 燃料切れ間近の旅客機に与えられた驚くべき指令とは?犯人達が仕組んだ驚くべき現金強奪作戦とは?前半のヤマと後半の乗客達の反撃が面白い。これは自信を持ってお勧めできる。 でも、もっと大きな飛行機を扱った『101便着艦せよ』って小説もあったよな(ネタバレいくない)*4
盗まれた空母 (文春文庫 (275‐22))

盗まれた空母 (文春文庫 (275‐22))


『亜宇宙漂流』を原作にしているかは知らないが、同じ設定のTVムービーが存在する。その名は『SF/スターフライトワン』。主演は『600万ドルの男』のリー・メジャース*5アメリカとオーストラリアを一時間で結ぶ新型機が初飛行でいろいろなお偉いさんと、この機体の設計者などのVIP、そしてアメリカで死去した某国大使の亡骸入り棺桶(これ重要)を乗せて一路オーストラリアへ旅立つ。加速用のロケットに点火すれば高度はすでに宇宙空間!

スターフライト1 [VHS]

スターフライト1 [VHS]

それを出迎えるオーストラリアの宇宙基地(といいつつNASAのフィルムの流用。しかもアポロ計画時)では、別の衛星打ち上げロケット(こちらも流用ゆえ、デルタと言いながらなぜかサターンV)の打ち上げも迫っていた。ところがこのロケットが打ち上げに失敗。軌道に乗り損なって危険ということで自爆させられ、大量のデブリが発生する。両者の打ち上げタイミングが旅客機遅延と天候によるロケット打ち上げ強行で重なってしまい、旅客機がデブリを食らって電気系統が故障、加速用ロケットエンジンが止まらなくなり、やはりこの旅客機も軌道に乗ってしまうという筋書き。なんかサンダーバードでも同じ話*6があったような気がするなこれ。

この旅客機を「 新型打ち上げシステム」を利用したシャトル、コロンビアが救助に向かう・・のだが、新型と名乗っているくせに打ち上げ・着陸シーンともこれまたNASAのフィルムの流用で、とても短期間で再打ち上げ可能な「新システム」を使っているようには見えない。しかも、一回は着陸シーンで出てくるのが「エンタープライズ」の滑空試験の様子。これが見れるのは私のようなマニアにはありがたいが、コロンビアとはタイルの配置がまるで違うぞ。

 で、肝心の救助のほうはというと、これがまた凄い。ホースでシャトルから直接液体水素を注入してとりあえず帰りの分の燃料を確保。しかしこの旅客機、大気圏突入には耐えられない。ここは初フライトに乗り込んでいた設計者に案を練ってもらおうということで彼を第一に救助する作戦が始まる。で、緊急用に開発されていた小型救助カプセルに人を詰め込んで搬送を試みる。ためしに旅客機の乗員一人が入ってみるもロックの故障で失敗。哀れ彼は宇宙の塵に。閉まってないなら「待ってくれ」って言おうぜ。

そんな彼らが考え出したのは、アメリカで死んだ大使の遺体を運んでいた棺桶に設計者を密封して運ぶ作戦。おもいっきり棺桶とふたの間に隙間が開いてピンチとなるも、中の人が必死で息を止めてぎりぎりセーフ。真空でも体は本当は爆発しないらしいがけっこう時間的には長かったぞ??第一、息を止めると逆に危険だそうだが

 で、これが終了したらコロンビアはさっさと帰還。設計者は管制室に向かい作戦を練る。コロンビアは大人数救助用の装備をかついで再び宇宙へ(早っ)。打ち上げシーンも再び*7。今度は旅客機のハッチに蛇腹状のぶっといホース接続、これをシャトルのエアロックへつないで乗客を少しずつ運ぶという作戦。明らかに気圧差に耐えられないと思うのだが。案の定、第一陣はうまくいったものの、第二陣を移送中に旅客機にデブリとの衝突によって開いた穴から出ていた電気スパークが引火し大爆発。これでこのアイデアもお釈迦に。コロンビアは乗客5人だけを乗せて悲しみの帰還。しかし、よく助かったな他の面々。エアロックは両方とも開いてたのでは?

 そこで今度は旅客機を作った企業のライバル企業が宇宙ステーション用に開発していたポッドに乗客を乗っけてシャトルのカーゴベイに入れる案を設計者が提示し、設計者と上司が「企業のメンツか、乗客の命か」で大喧嘩を始める。結局使用が決定したものの、全員は救助できない。乗員たちと志願した乗客数名が旅客機に残り、大気圏突入策の完成を待つことになる。三度コロンビア発射。コロンビアは今度は問題なく残った乗客たちを救助した。

 そして突入案がついに決定。乗客の一人にいた旅客機の電子部品に詳しい男がNASAから借りた宇宙服で船外活動を行い、旅客機の異常個所を修理。そして衛星修理任務を終えて帰還中だった軍用シャトル(これもふつうのスペースシャトル)が先に大気圏に突入。これを「盾」として使い、その後ろから旅客機が大気圏に突入!はみ出る部分は翼端だからなんとかならぁという練ってるのかいい加減なのかよく分からない作戦!

まぁ、元TVムービーなのでそう目くじら立てて見るものではないのだろうが*8。自分は倉庫の中の金塊が無重量で浮かび上がり、機体の穴から宇宙空間に飛んでいくのを確認する副操縦士のシーンを見て「もしや!ここで副操縦士が悪い考えを起こして・・・」と期待していたのだが、そういうこともなくまっとうに終了。たまぁに違う気分の映画を見たいという物好きな方、もしくは旧シャトルの栄光を再確認(?)したい方は見てもいいかも。間違っても私を攻めないでくださいな。 

今後しばらくは「宇宙旅行」と言ってもまだ通常のロケットを使ったものと、軌道に乗ることなどまずあり得ないサブオービタルのものが主流だと思われるので、こういう心配をするのは野暮ってものだが逆にこういう心配をせねばならない時代なんていつ来るのだろうと思うと少し哀しいような気もしなくはない。そういや昔紹介したハートフル宇宙観光サスペンス(?)『軌道離脱』の映画化もどうなってるのかね。ハヤカワで映画化のオビ付きで話が消滅したものをリストアップしたらどれだけになるのやら*9。あざといとは思いつつ、遺書替わりに書きためた文章が人々を動かすシーンが好きなんだぜ。


こちらの方も両作品の共通点に指摘している
>亜宇宙漂流 - ローリングコンバットピッチ!なう!
>http://d.hatena.ne.jp/RC30-popo/20050211/1108083067
前者への細かい言及など。やっぱりこのへんはSFでのお約束、「方程式」的な部分がないと話は盛り上がらないか?
>9/17「亜宇宙漂流」: コリちょこ
>http://kori.air-nifty.com/choko/2006/09/917_efa7.html


次回は…そろそろ「軍事」に行きますか。何かと騒がれたSDI時代の話をいくつか予定。
(ちゃあしう)

*1:このあたりを背景にしてる作品としては、宇宙ステーションを舞台にしたSFミステリである三雲岳斗『M.G.H.』などがある。

*2:実はネルソン・デミルとの共著 最近デミル加筆版が登場した

*3:ただ、さすがに鍵となる主脚格納庫の中にある空気の量ってそこまで多くないような... 着眼点は面白いのだが。まぁ、一番使い勝手が良いのは機内の空気だが、これを出すと乗客が生き残れなくなってしまう

*4:一応海軍の実験で、C-130やU-2といった特殊な機体をを発艦/着艦させる実験は成功している。フライトシムではおなじみのネタですがね

*5:600万ドルの男』でもロケット機HL-10に乗って事故に巻き込まれたわけで、つくづくロケットに縁がある人だな。

*6:「宇宙放送局の危機」のこと。ラジオの宇宙「有人」海賊放送局が、打ち上げ失敗のロケットを爆破したデブリで破損して石油採掘基地に墜落する。 国際救助隊は3号で中のDJらの救助、2号で大気圏内での落下阻止行動に移る。ちなみに日本ではこれが最終話

*7:SRB&ETもついてるが、やっぱりVABであわてて組み立てたのか??!

*8:IMDBではここでのツッコミ以外に「燃料補充できるんならなんで酸素も補充しないんだ!」というごもっともな指摘が。

*9:最近も『極北のハンター』企画の正式終了が決定したそうで。そりゃ、ランボーシリーズに「ランボーVS軍が開発した生体兵器」を組み込んだらファンでなくてもブーイングが出るだろうに。