杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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シャトル・フィクションズ 第七回 地には平和を、天にも平和を 「FUTURE WAR 198X年」「SRV-5宇宙戦闘艇 シャングリラ作戦」「オーバー・キル」「降伏の儀式」

これまで続けて来た軍用シャトルネタの〆ということで宇宙時代のカタストロフィについて。レーガン大統領の発表した戦略防衛構想SDIは強力な「盾」として機能することを目標としていた。だが、核抑止とかいう冷戦期の困った概念からすると、片方のバランスが著しく崩れることも意味する。宇宙への軍拡を進めるのであれば、将来の戦争はより恐ろしいものになるのではないか?いや、むしろソ連は「盾」がそろわないうちに先に打って出てくるのではないか?そういった不安が一部で出てくるようになった。
そんな時代に作られたのが日本のアニメーション映画「FUTURE WAR 198X年」。

アメリカでレーザー迎撃衛星が実用段階になったころ、ソ連は技術的優位を崩すべく衛星の専門家を拉致、ソ連へ送り届けようとする。輸送に使われるのはアルファ級原子力潜水艦の改良型で、通常兵器では届かない。そこでアメリカは核魚雷を使用してこれを撃沈してしまう。これにより態度を硬化させたソ連は強硬派によって牛耳られてしまい、次に起こった東側機の亡命騒ぎとそれに対するスペツナズによる作戦が呼び水となってヨーロッパで戦闘が開始。そこからついに戦術核、そして戦略核の応酬に発展してしまう。
世界各地の大都市が焦土とする中、ソ連では穏健派による行動が開始される。またアメリカ側も損害が大きく、これ以上の核の惨禍を望まなかった。だが、ソ連タカ派はなおも戦略核の第2波を用意していた。主人公は試作段階のレーザー兵器でミサイルを破壊するためシャトルで軌道に向かい、ソ連のキラー衛星群と激しい攻防を繰り広げる… というストーリー「らしい」 
というのもまだLDとかしかないので現物は見たことが無かったりする。昔ノベライズを少し見かけたことがあるが、今は目ん玉ひんむく値段がついている。なんでも制作&公開当時は労働組合が「好戦的プロパガンダ映画だ!」とボイコットしたなんて話もあるいわくつきの作品だそうだが、実際どうなんだろう。


宇宙から見れば地球の小ささ、大切さが良く分かるはず ということは良く言われるものの、実際のところ宇宙からは綺麗なものも見えれば汚いものも見えるもの。星野之宣のSF連作『2001夜物語』の第二夜『地球光*1』ではスペースシャトルソ連の宇宙ステーション「トルストイ」に向かった米大統領と待機していたソ連書記長が対談し軍縮へ動く話があったが、同作者の別短編『怒りの器』(2001夜物語番外編を含む短編集『2001+5』収録)では、西側諸国に対して貧困にあえぐソ連の一部勢力がミール拡張宇宙ステーションを軍用シャトルで接収、ミール時代から中に設置されていた「他の指揮系統すべてが失われていても報復攻撃実行が可能な」非常用独立核戦略指揮システム「怒りの器」で限定核戦争を起こし、「世界全てをソビエト化」という名目で同じレベルの被害を与えようとする対照的な話になる。こちらではアメリカ側の軍用単座スペースプレイン*2も登場。ソ連側の貧困・不作の原因がなんとなく西側による環境汚染を暗示しているあたりがなんとも今の時代は南北問題的な感。

2001夜物語 (Vol.2) (Action comics)

2001夜物語 (Vol.2) (Action comics)

2001+5―星野之宣スペース・ファンタジア作品集 (アクションコミックス)

2001+5―星野之宣スペース・ファンタジア作品集 (アクションコミックス)


当時から想定された80年代が舞台の映画198Xに対し、当時の延長上からの90年代を描くゲームブックが「ミリタリー・イラストレイティッド」シリーズを出している光文社のゲームブックSRV-5 宇宙戦闘艇 シャングリラ作戦」

隣りは自分も参考にした戦略防衛構想が進む当時(1985年)を知る上で貴重な史料であるミリタリー・イラストレイテッド『米ソ宇宙戦争』。
米ソ両国で宇宙を含めた軍拡競争の進んだ1997年、軌道上には10人近くが常に暮らしている時代。両国はすでに宇宙を戦場にする準備を完了している。アメリカは軍用極軌道ステーション「ドゥーリットル」に自由電子レーザー砲台を、ソ連もミール改良型軍用ステーション「アレクセイ・トルストイ」 *3 に化学レーザー砲台をテザー方式で搭載した。そんな中、ソ連国内で不振な動きが起きていることをベトナム筋で察知したアメリカのタカ派大統領はソ連の動乱が核戦争への波及を防ぐため、先手を打ってソ連軍用宇宙ステーションへの侵攻作戦を決断した!

 登場メカはほとんど同社の軍事ムック「ミリタリー・イラストレイテッド 米ソ宇宙戦争」からとられている。ソ連版小型シャトル、のちの「ブラン」に相当する大型シャトル。ミール派生型ステーションと、それに装着されるテザーモジュール。極軌道軍用迎撃ステーションに未だ実現していない無人作業支援機テレオペレーター。さらにはNASASTS派生の大型シャトルや有人作業用機動モジュール。さらには「大型輸送機An-124を二機つなげた空中発射母機」なんて怪物も登場する。そして主人公の搭乗するタイタン派生型で打ち上げる小型有人宇宙往還機「スター・ストリーク

これもダイナソアがモデルだ。元はX-24リフティングボディ試験機のバリエーションとして計画されたX-24Cスクラムジェット試験機を改良したものとされる。スクラムエンジンのあった場所には宇宙でも使える新型ミサイル、スカイ・スキマーが積まれている。打ち上げ機はこちらもタイタン改良型で、シャトルのSRBを装着することでコストを下げることを狙った...という設定。史実や、アレスのていたらくを見ていると嫌な予感しかしない。

目標となるミール発展型ステーション(下部にあるのがレーザーモジュール)。ソ連側の新型スペースプレイン「ラドガ」は発射ロケットも同じく「ラドガ」とかわざわざ細かいところまでソ連式準拠。アントノフAn-124ルスラン双胴タイプはマジ贅沢の極み。ただしソ連領ではさすがに運用に支障をきたすのか、ベトナムの空港を借りて南沙諸島周辺の赤道上から打ち上げる。


同じシリーズでベトナム戦争での空中戦を「1プレイ=1ソーティー」に置き換えて体験する『F-4Jファントム ラインバッカー作戦』が実際の設定と戦績が後に影響するシステムでうまく出来ているのだが、こちらは若干ゲームバランスが悪い。ページによっては「番号」が振ってないところもあるし、ゲームブックとしてあるまじき「無限ループ」に入るところまであったりする。こちらが問題の頁。なんという自己完結。

偶然2冊目を入手することが出来たのだが、そちらも無限ループ。入ることは滅多に無いとは思うが、エンディング近くなのにこれはあんまりだ。
また、ゲームブックゆえしょうがないとはいえ、バッドエンドのバリエーションが凄く豊富。まだ宇宙にも着かないのに
・離陸直後にヴァンデンバーグに潜入していたスリーパーがスティンガーミサイルを発射・命中・爆発!
・ロケットの欠陥でエンジン緊急停止・軌道への到達不能で緊急帰還!
シャトル用のSRBに欠陥 第2のチャレンジャーと化す!
・ロケットの燃料のポゴ(揺れた燃料によって生じる不具合)で爆発事故発生!

上がって極軌道軍用ステーション「ドゥーリットル」から補給を受けようとするも

・補給のためステーションに接近・乗っ取られた防衛用レーザー浴びせられて死亡
・同上・ステーション乗組員にナイフで殺害される
・同上・ロボットアームでコックピットを潰される
・同上・ロボットアームVSミサイルで同士討ち
・同上・相手を倒し終わったところでトラスをよけきれず激突

どんな終わり方をしても核戦争が始まってしまうし、結構死に方はむごい。しかも一回は見事に流れ星となり、太平洋に降り注ぐハメになってしまう。およよ

最後の頁に元ネタがいろいろ書いてあるのだが、ちゃんと宇宙ステーション名「トルストイ」が『2001夜物語』から…と思わせて「レフじゃなくてアレクセイ」とひねってたり、流れ星エンドがブラッドベリ『万華鏡』、さらにはマイナーだが硬派なポストアポロ計画なハードSF(?)映画として先日も紹介した『宇宙からの脱出』が書いてあったりとかなり詳しい。さらにテザー衛星や打ち上げウィンドウに関しても当時手に入る資料から詳細に設定されているようだ。そう考えるとなおさらゲームバランスの穴が気になるところ。


このようなポストSDIを扱った話では笠原俊夫『オーバー・キル』(『シャドウ・キャット』収録)があり、こちらでは防衛システムから一歩進んで、先制攻撃指令とともに運動エネルギー兵器でサイロを先に破壊する「プレ・ブーストフェーズ迎撃」手段までもが軌道を周回しており、その指揮衛星が突如コントロール不能になるという設定。米ソで宇宙兵器の相互配備が進む中で、お互いにオブザーバーを派遣し合うことになって呉越同舟となった米空軍士官とソ連の(科学畑出身で文官な)女性飛行士。だが2人とは別に同乗していた衛星の専門家は実は世紀末の閉塞状況で人類の破滅を望むカルト教団「終末教団」の手先だった…   

シャドウ・キャット (ボム・コミックス)

シャドウ・キャット (ボム・コミックス)

先制攻撃信号を発進させずにどうやって衛星を止めるか?それができても無事に帰還できるのか?というところで最後までヒヤヒヤさせてくれるが、オチがなかなかにブラック。 冷戦終末で互いにギロチンのロープを握りあう体制からは脱却した我々だが、過ちを犯すことなく21世紀もやっていけるのか。その先は実際のところ不透明ではある。
衛星軌道の死闘 (新潮文庫)

衛星軌道の死闘 (新潮文庫)

ボブ・ラングレー『衛星軌道の死闘』はオーソドックスな冷戦スパイ物か。ただし007的な意味で。14年前に海底に墜落した筈の宇宙船から突如発進された救難信号。その謎を追う英国SBS(特殊舟艇部隊 )隊員&女性科学者とGRUの軍人が激突…していたらいつの間にか協力し合って呉越同舟で世界の危機に立ち向かう羽目になるイギリス冒険小説&映画的作品。いくらなんでもあの時代に○リアはねぇだろバ○アは… といいつつ、意外にアナクロな解決法や展開のわざとらしさは良い味付けか。


「平和」という言葉の用途というか意味は違うが、ニーヴン&パーネル『降伏の儀式』では『インデペンデンス・デイ』もかくやの異星人侵攻で滅亡の危機に瀕した人類が建造した「なりふり構わない最後の切り札」核パルス推進宇宙戦艦「大天使」に装着されて敵母船に特攻するスペースシャトル軍団の雄姿は感動ものであった。あのトラブルのもとでしかなかった大気圏突入用のタイルが敵のビーム攻撃を減衰させることが勝利のカギとなるのだ! 博物館からX-15持ってくる?みたいなところもちょっと見たかったかも。小松左京『見知らぬ明日』では宇宙戦艦、として米空軍のMOL(軍用有人実験室)使ってたが元ネタ同様あれはジェミニベースなのかしら

降伏の儀式〈上〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈上〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈下〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈下〉 (創元推理文庫)

軍の要求を飲みまくって生まれたシャトルの存在が軍を増長させたのか、逆に「現実の」シャトルの性能が軍の足を引っ張ったので宇宙の軍事化は阻止されたのか。   ま、そこまで深く考える必要はいまのところはないか。
(ちゃあしう)

*1:元ネタのA.C.クラーク『地球光』がガンダム的な宇宙戦争の話なのは皮肉か狙ったか。月のお姫様が留学してくる某ADVの人物名の元ネタでもあるそうだが、あちらでも地球と戦争した後の話だそうで…

*2:軌道までは別のシャトルで運ばれていくようだ NASA時代のX-37的

*3:この作品内でも突っ込まれているのだが、先の「戦争と平和」のレフ・ニコラエヴィチ・トルストイではなく、スターリンの愛した「殺人光線を使うSF作家」アレクセイ・ニコラエヴィッチ・トルストイなんだとか。問題の著作「ガーリン技師の双曲線」は映画化もされて人気を博したというソ連SF初期を築いたひとり。詳細はこちら:wikipedia アレクセイ・ニコラエヴィッチ・トルストイ