シャトル・フィクションズ 第八回 標的(ターゲット)は星の船 「シャトル防衛飛行隊」「イグニッション」「アナンシ号の降下」「スペースシャトルぶんどり大作戦」
スペースシャトルを扱う作品の紹介企画の8回目。シャトルは公共事業化した宇宙開発、とはいえどもまだまだ国の大きなイベントの一つである事に代わりはなく、ケネディ宇宙基地は厳重に警備されている。だが、それを狙うものが出てきたとしたら?かの『007 ムーンレイカー』は原作は弾道ミサイルの話だったのが映画ではスケールが上がってイギリス政府が購入したシャトルが強奪されるところから話が始まり、悪役の目標も「宇宙ステーションから大量破壊兵器を撃ちこんで人類を滅亡させる」と中々にトンデモ無い話になってる*1し、『レインボーシックス イーグルウォッチ』でも、ロシアの宇宙基地でスペースシャトル・ブラン*2発射台が占拠されるというシチュエーションがあった。今回は、そんなシャトルをテロの標的にしてしまう物騒な話を紹介。
007 ムーンレイカー アルティメット・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2006/11/22
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マーティン・ケイディン『シャトル防衛飛行隊』
著者は先の『宇宙からの脱出』や航空ノンフィクションで多数の著作を残しているマーティン・ケイディン。この生頼範義氏による気合入ったイラストがいいねぇ
- 作者: マーティンケイディン,冬川亘
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/08
- メディア: 文庫
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- 作者: マーティンケイディン,冬川亘
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/08
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巻末の野田大元帥の解説が雪風のとき並に趣味の世界にべったり。ご自分のそういう団体の集まりに参加したときの様子を事細かに描いている。ははは。たしかに「爆撃機まで含めた大戦機で興行する」なんて趣味の世界だねぇ。
しかし、日本人的にはショーの展示用とはいえ実物と同じ形の「あの二発」が置いてある倉庫とかどうよ とは思う。まー、原爆に関する考え方は今に始まった事じゃないのであまり突っ込む気はないが。『FALLOUT3』のヌカランチャーですら英語版での名称は「ファットマン」だし。MGS2でもいたけれど。
あと、いくら相手が死を厭わないテロリストで主人公サイドが正義とはいえ、あの「攻め方」(尋問)はちょっと無いんじゃないかと... そういうことやるから恨まれるのでは。
ケヴィン・アンダースン&ダグ・ビーソン『イグニッション』
- 作者: ケヴィン・J.アンダースン,ダグビースン,Kevin J. Anderson,Doug Beason,矢口悟
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1998/02/01
- メディア: 単行本
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著者は技術者コンビ、本作や特殊部隊をスペースプレーンで送り込む『TAV攻撃艇出撃す』のようなハイテクスリラーっぽいもの、マンハッタン計画を阻止してしまったためにナチスが原爆を開発、歴史改変とその修復に奔走するエコロジストを描く『臨界のパラドックス』や異星から降ってきたナノマシンが月面を食いつくす『無限アセンブラ』を書いている。『ダイ・ハード』のジョン・マクナティアンによる映画化の予定もあったとかなんとか。
ダイハードなアクションをやりたいのは分かっていても、自分たちが見慣れた風景がどかーんと吹き飛ばされて行く様はなんかイヤーなものを感じなくもない。建築物なら直せるが、宇宙開発の機材は直すための予算が降りるのかってのがあってどうも。それゆえ、あんなものやあんなものの爆破シーンは別の意味でやるせなさみたいなものを感じる。この野郎...ただでさえ困ってるのに10年近く計画が後退してしまうぞ。 でも、ラストに明かされる犯人の正体を聞くと、著者達の「ふがいない現実の宇宙開発への怒り」みたいなものがあったりするのかな、と邪推できなくもない。だとしてもこういうぶつけ方はなんか嫌いだが。
他の例としては、トム・クランシーの「剣」シリーズ3作、『謀略のパルス』。国際宇宙ステーションへ物資を運ぶシャトル『オリオン』が発射台で炎上。さらにステーションのコンポーネントを開発していた国際企業・アップリンク社のブラジル工場が武装集団に襲撃される。アップリンク社のCEOであるゴーディアンはNASAの専門家などとともに両事件の関連性を調査を開始する。宇宙開発を狙う謎の陰謀に一企業の私設特殊部隊「剣(ソード)」が立ち向かう。
- 作者: トムクランシー,マーティングリーンバーグ,Tom Clancy,Martin Harry Greenberg,棚橋志行
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 2000/11/01
- メディア: 文庫
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近未来方向での「軌道上での攻防」を描くなら『アナンシ号の降下』がある
- 作者: L.ニーヴン,S.バーンズ,榎林哲
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1986/09
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執筆は『ノウンスペースシリーズ』のようなニュースペースオペラから近未来軍事ものも書くおなじみラリー・ニーヴンと、『アヴァロンの闇』等の共著のあるスティーブン・バーンズ。NASAから独立を宣言した航空宇宙企業フォーリングエンジェルズ社は財源確保のため、無重力精錬の新素材を売り込むことを画策。ちょうど日本と韓国を対島経由で結ぶ横断橋(ツッコミ無用 アメリカ人の発想ですから)のために資材を調達していた日系企業からの思わぬ契約があり、NASA払い下げの社保有のシャトル・アナンシ号とイオンエンジン牽引船で運び出すために移動を開始した。ところがライバル企業はそのことが気に食わず、シャトルを攻撃して破産に追い込み会社も契約もゲットするという卑怯極まりない作戦を実行に移す。ミサイル調達のため反米テロ組織とすら手を結ぶ彼らはついにミサイル攻撃を実行し、さらに念には念をということでチャーターした民間シャトルで「救助活動を行う」と称して武装した部隊を差し向けつつあった。牽引船は破壊され、エンジンを損傷し動くに動けないアナンシ号乗員たちの運命は??
アイデアとしては「動力が無い宇宙船がどうやって逃げる?」という部分に焦点を置いたワンアイデアストーリーではあるのだが、シャトルの空燃料タンク(ET)を結合させて作った宇宙ステーションが本拠地の民間企業、日韓共同事業のために大きな賭けに出る日系企業、テロ屋とすら手を結ぶ巨大企業体と言った未来像はなんとも「景気が良かったころ」を思い起こしてなんとも思うところはある。ただ、本作で出てくるアイデアはいわゆる「テザー推進」と言われるもので、今でも小型衛星を使用後地球に落下させる手段などデブリ対策方面などで応用が期待されている(先に紹介した『シャングリラ作戦』でもちらっと言及がある)。今後も期待される分野である。宇宙工学的な記述は他のサイトに譲るとして、表紙のイラストがその細いテザーを伝っていく名シーンなのは個人的に評価が高い。武器の無い人々がアイデア絞って対抗する話はやっぱりなんというか自分好み。
どうせなら、もっと楽しくて景気のいい物が見たいものだ、と思ったらこんなものがあった。『スペースシャトルぶんどり作戦』!
- 作者: 浜野えつひろ,久住卓也
- 出版社/メーカー: 旺文社
- 発売日: 1999/04
- メディア: 単行本
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(ちゃあしう)