杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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古橋 秀之

 今日まわったスレッドのなかで唯一作品論評だけで構成されていたスレ。荒らしにくる人さえ居ないのだろうか…、わたしは好きなのだが。という訳で、記念にこの方の作品を紹介!…ただし、ネタばれ注意。 
                              <銀>
ネタばれ注意報!!

ブラックロッド (電撃文庫)

 電撃大賞の受賞作。
 主役は感情を抑制されたエリートで構成された警察のような組織、ブラック・ロッドの一員である。…あれ? こんな設定、つい最近きいたような。
 彼はある犯罪者を追う過程で、組織関係者の一人である女性と協力することになる。彼が感情を持つことを望む素振りを見せる彼女と共に犯罪者を追っていくうちに、彼は少しずつ感情を蘇らせていくことに。しかし、相手の犯罪者は相手の精神に寄生する、という能力を持っているのだった。感情を取り戻していた彼はこの犯罪者に精神への進入を許してしまう。このとき彼は(特にヒロインに対する)感情を持っているが故に、自らの命と引き換えにこの犯罪者からヒロインを守り抜くという選択を行う。だが、彼の決意は、犯罪者を捕まえるため彼を利用しようとするヒロインの策略の内でしかなかったのだった。大筋はこんな話。細かい内容は忘れたので間違いもあるだろうが許してけろ。ネタばれ満載だがどうせ誰も読まないっしょ?
 この作品は細部の設定が凄まじい。そのせいか、人気は薄いものの熱狂的なファンがいる。この世界観は、仏教の考え方を根底に敷き、そこに独自の感覚で積み上げていったもの、といった感じ。我はこの設定には全く興味が無く、ストーリーにもどこかで見たような印象を受けたため彼の作品の中でこの作品が唯一嫌いなのだが、案外今読んだら面白かったりするのかもしれない。厚くないので、いずれ読み直してみよう。

ブラッドジャケット (電撃文庫 (0176))

 ブラック・ロッドの第二部。とはいえ、第一部の主役は死んでいるので世界を共有しているだけ。
 主人公は吸血鬼とそれを狩るヴァンパイア・ハンター。吸血鬼は相手を見るだけで精神支配をかけられるので、普通の人間は敵対することさえできない。ところが、このヴァンパイア・ハンターは『修羅』と呼ばれる特殊な精神構造をしており、自分の意識とは無関係に敵対する相手を殺すという二重精神構造をもっているのだった。ちなみに、この吸血鬼とハンターの関係はいろいろと工夫があるのだが、ここではその辺をバラシまくっているので注意…、まぁ手遅れか。このほかの印象深い登場人物は、どっかからパンとワインを生み出すという奇跡を起こす人間がいた気がする。根底は仏教なのにキリスト教がこの辺に混じっていたりいなかったり。
 我が古橋を好きになったきっかけがこの本である。この本のワンシーンとして、ハンターの精神が若干壊れてるような状況で敵を殺しまくるところがある。ここで彼はヒロイン的なポジションにいる女の子に「花が好きな君に真っ赤な花を捧げるよ。」というようなことを言いながら敵の頭を拳銃で撃ち抜いて血の花を咲かせ続けるのだが、話の前後の流れとあいまって、当時の我は背筋が痺れるほどの興奮を味わったのである。挿絵なんぞ入っていなかったにもかかわらず、いまだにその文章が脳内映像となって頭に残っているほど。我はこれが古橋の最高傑作だと思っている。
 

ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫)

 ブラック・ロッドシリーズの第三部にして完結編。
 面白かった記憶はあるのだが、内容がイマイチ思い出せない。よって、この辺を参考にしてもらえると。


ここまでが、古橋の初期作、いわゆる黒古橋の作品である。
そしてここからが白古橋の作品になる。

ソリッドファイター (電撃文庫)

 名前の通り、戦場での戦いを描いた作品…というのは冗談で、どちらかというと格闘ゲームの話。育成型格闘ゲーム(ゲーセンなどで他人と対戦して、経験値を溜めていく)にハマッている少年がある日、マナー無視の対戦相手に、育てたキャラクターのデータを消されてしまう。怒った少年は次は負けないことを誓う。そのため、少しでも強いキャラクターを求めるのだが、ここで目をつけるのがなんと自分の担任の女教師。どうやら、彼女は一子相伝だかなんだかの武術を継承しているらしく、少年はどういったコネだかゲーム会社で彼女の能力をもとに一人のキャラクターを作ってもらう。その結果できたキャラクターはなんと軽量級のスピードに重量級のパワーをもっていた。
 この話は一巻しか出ていないが、話はここらで終わる。つまり、続きがあるはずなのだが新刊はさっぱりでてこない。二巻は完成しているという話はあるので、あまりの人気薄に打ち止めを食らったのでは、と心配している。ちなみに、最近の小説でいえば『スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))』を思い出すが、あまり似ているわけでもない。むしろ、漫画の『ZERO ONE』に似ているような気がする。
 個人的には取り立てて好きなわけではないが、嫌いでもなかった。これよりもツマラナイ作品はたくさんあると思うが、どうやら発刊が早すぎた様子。今頃出ていれば、少なくとも打ち止めは無かったと思うが。残念だ。

タツモリ家の食卓(1,2,3)

 知的生命を保護することを目的と称する超越存在<キーパーズ>は知的生命の定義を、自分たちの力のみで星間移動が可能であること、<キーパーズ>との意思の疎通が可能であること、この2つに定めている。この定義に従い、宇宙を自由に闊歩しその余波だけで文明を破壊する超電磁生命体<リヴァイアサン>を単なる害獣をみなし駆除することを決定する。<キーパーズ>に追われたリヴァイアサンは、その力のほとんどを失いながらも、準知的生命体の人類が住む惑星、地球に逃げ込んでくるのだった。日本の高校生である、マイペース主人公は人間の赤ん坊に擬態したリヴァイアサンを見つけ、これを保護する。その結果、リヴァイアサンの力を戦争に用いるためにやって来た軍事帝国グロウダインと、その敵対勢力である銀河連邦の使者が彼の家に住み込み、さらには自衛隊なども交えての騒ぎが起こる。この中で、主人公は持ち前のマイペースさで様々な事件を乗り越えてゆく。
 この作品は結構気に入っている。登場人物もそれぞれ個性があり、これといった見所などは無いが、ほのぼのと面白い。にもかかわらず、これも完結していない。どうなっているんですか、古橋先生! それなりに面白いSFだと思うんだがなぁ…。

IX(ノウェム) (電撃文庫)

 中国の武侠を中心にした物語。とりあえず、人類の武術ではそんなことはできないと言ってやりたくなるくらいデタラメな人間しかでてこない。
 この世界では、人類の発展よりも前に滅びた『辰人』と呼ばれる存在があった。主人公の少年は、母親が辰人の像にお参りした結果として片腕だけが辰人の異形の巨大な腕になっている。崇められている存在の腕だけあって、かなり人間離れした能力を持っているのだが、主人公の体のほうが腕の出力に耐えられない、という設定になっている。主人公はこの腕のせいで人里で暮らすことができず、山中でサルたちのボスとして暮らしている(孫悟空か!)。この物語は少年が武術を修めた男に敗れて、彼と共に山を降りるところから加速してゆく。
 これも悪くない。なんとなく、主人公の性格や生き様は好みである。ある意味超然とした彼の生き方は『幻妖草子 西遊記』の悟空を思い出させる(サルつながり?)。こちらの作品も主人公の生き様がとても気に入っている。
 物語もキチンとできており、テンポよく進むが、物足りなく感じさせるようなことはない。物足りないとすれば、これも一巻の続きがでていないことであろう。…ホント、どうなってるんですかねぇ。

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

感想はおおむねこちらを参照のこと。
ちなみに、探検隊さんのおすすめは『トトカミ』であるそうだが、我のお気に入りは表題作である『ある日爆弾が落ちてきて』だ。
 この作品は、昔気になっていた子そっくりな女の子が、ある日空から降ってきて「わたしは爆弾なの」と自称する、という話である。この話の中で、彼女は自らが爆弾として大勢の人を巻き添えにして死ぬ理由を、きれいに死にたいからだ、といっている。未来も将来も苦しいことばかりで、みんな終わらせて欲しいって思っているはず。ちょっと踏ん切りのつかないだけのみんなのために、一瞬でぜんぶ消してしまおう、という彼女の意見はとても共感できる。なにせ我は1999年に、恐怖の大王が降りてこないことなどわかっていながら、それでも来てくれることを希望していた一人なので。この話も、そんな作者の気持ちを書いたモノなのではないだろうか。
 ちなみに、読み直してみたらそれなりにハッピーエンドは多かった。謝罪。