杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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やっぱり見ていたような雰囲気 「デジャヴ」時間軸解釈完結編?

これまで2回ほど考察した、トニー・スコットジェリー・ブラッカイマー制作、デンゼル・ワシントン主演のサスペンス映画『デジャヴ』。映画館で見たときはあまり人がいなくて見た後「傑作じゃん!どーして人気が出ないんだよ!面白いだろう!」と悔しかったものだが、本作が今週の金曜ロードショーで初地上波放映と言うことでちょっと嬉しい。しかし、本作はサスペンス映画なのに「時間の流れが特殊」である。一回見ただけじゃ分からんぞという人もいるだろう。自分はそれまでにも数回本映画の解釈を試みたが、今回DVDも手に入れたので、本映画における時間の流れを改めて考察してまとめた企画をお送りする。当然といえば当然だがネタバレ全開で行くのでまだ見てない、という人は注意。
前回:「もう一回見た気配」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/20071013/1192292287
前々回:「既に一回見た気分」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/20070407/1175952285
日本での売り方はともかく、「SFタイムトラベル映画」である(ここ重要)『デジャヴ』。落ちついて考えないと混乱するので、話の筋にかかわる登場人物4人に絞って考える。

  • ダグ  ATF捜査官。主人公。独特な思考と行動力で捜査を行う。一目ぼれ(死体だが)したクレアを救うために時空をかける。
  • クレア 事件のカギを握る女性。爆弾を仕掛けるため犯人が調達した車の元持ち主。車を渡した後口封じのために殺され、テロ被害者に偽装された。
  • ラリー ATF捜査官。主人公の相棒 事件の少し前から行方不明になっていたが、テロ現場近くで車だけが残されていた。
  • 犯人(オースタッド)  よくある自意識過剰な愛国者愛国者のくせに軍人相手のテロを行う卑劣漢。

彼の好む決め台詞「自由の木は愛国者と暴政者の血で時から時を経て新しくされていかなければならない。」はトマス・ジェファーソンの言葉で、COD4の格言コーナーでも登場するが、ちょっとニュアンスが異なる。

基本事項

タイムトラベルを扱う作品では、その時間軸の扱い方が重要になる。本作における時空は「分岐する」タイプ。時間移動・通信を伴うたびに新しい時間軸が生成される。よって、タイム・ウインドウ越しに発生させた変化(通信・移動)は新しい時間軸に生じる。古い時空は以後出てこない。これだと、過去に戻った先の同じ時間軸にもう一人の自分がいるじゃんという問題はあるが、これは本作においては「片方が必ず爆破テロ*1で死亡する」ことによって遭遇することはないので、矛盾などは生じない(かわいそうだが)。
スコット監督は、意図的に同じような流れに時間を持っていく事で主人公のみならず、観客にもデジャヴを体感させる。でも、どこかが違う。そこをよくチェックする必要がある。
多くのタイムループ物と違って、ダグが生前もとい前時間軸の記憶を持ち越すことは理論上はありえない。でも制作陣は「なんとなくこの女見覚えがあるな」という演出をわざとしてる感がある。前の自分が残したヒントを基に頑張る話で十分な気もするんだが、それだと無味乾燥で訓練されたSFファンしか喜ばないからだろうか。

具体的な時間軸の解説

1回目

映画には登場しない。要は「一番最初のループ」。具体的描写はないので、ここでクレアやラリーがどうなったかは不明だが、このとき初めてダグはタイムウインドウの存在を知り、何らかの形でそれが時空移動できるものと知った。彼は事件を阻止すべく過去へ向かう。おそらく何度もクレア殺害阻止のためにダグは頑張ったのだろうが、そのたびに失敗しダグは死亡する。一発でうまくいったということはないだろう。

(その後、タイムトラベルが繰り返される)

N-2回目

映画で描写される事件のひとつ前の時間軸。よってこれも描写は全くされていない。ダグは事件を阻止できず、死亡する
ダグN-2はまずメモを送るが、これを見たのはラリー(時間軸N-1)であり、ラリーは港で犯人と接触、その後殺害される
そして今度はダグN-2本人がタイムウインドウでN-1時空へ移動する。

N-1回目

映画冒頭の事件は本時間軸。また、監視カメラなどの画像、映画中の犯人の証言は本時間軸のものである(つまり、タイムウインドウで覗いているものとは「似ているが別」である)

ダグの机の上にメモ(N-2回目から送られてきた)が出現。それを発見したラリーはメモをもとにフェリー乗り場で待ち伏せするものの、犯人に重傷を負わされてしまう。そして運ばれた先でラリーは焼き殺され、残りはワニの餌となった。つまり、ダグN-1が発見したワニ池の死体はラリーのもの(コメンタリー欄参照)。


その後、メモの失敗を悟ったダグN-2がこの時間軸に自ら移動してくる。そのころ、犯人はクレアN-1をクレア宅から車を入手するついでに拉致。犯人自宅で焼き殺そうとした(ここまで犯人の証言にもある)。ダグN-2は救急車で犯人宅へ突入してクレアを救出、クレア宅でけがの手当てと身元確認による信頼を得る。クレアの友人ベスから電話がかかってくるが、クレアは「ちょっと人が来てるので」と電話を切ってしまう。この時点ではクレアもダグも生きているのだろう。ダグは次の自分(もし自分が死んだ後、捜査に参加するであろう自分)へ向けて「u can save her」のメッセージを残しておく。


ここからは推測だが、ダグN-2はクレアを家に残して一人で爆弾を阻止しに行ったのではないか?犯人はクレア宅を知っているので、さっきのガス爆発で奴らは死んだとは思うが念のためチェックしてみようとクレア宅を訪れて鉢合わせ。せっかく助けたのに結局犯人の餌食になってしまったのではないだろうか。
このシーンを解く鍵だと考えられるのは、映画の中でクレア宅の留守番電話に入っていた記録。ベスの電話後すぐに入った無言電話(9:50)があり、この電話の主は不明。クレアが何らかの形で電話を受けられなかったということではあるが、これだけでは何が起きたか絞る事は出来ない。
10時42分、河川敷で殺害されたクレアの死体が発見される。犯人は流石にここまで早く見つかるとは思わなかったろう。それを知らない犯人はその後橋の上でバイクに乗ってフェリーを見ているシーンが監視カメラに残っている。


爆発までにダグに何が起きたかも、詳細は描かれていないため不明だが、クレアと同様に爆破までに死亡したことは確かだろう。死体は出てこない(見つかっている可能性については後述)。「フェリー爆破」シーンがオープニングであり、これ以降が映画中の捜査風景になる。現場にダグN-1が登場する。ダグは爆破「前」に発見された奇妙な女性の死体を調べ、彼女が事件のカギとなることに気がつく。ダグN-1は洞察力を認められてタイムウインドウのチームへ入る。ダグN-1はクレアの家を訪れる。慎重に動いたはずだったが、そこにはダグ(先の爆発で死んだダグN-2)の指紋がそこらじゅうについていたことを知らされる


ダグN-1はやがてレーザーポインターでタイムウインドウが「リアルタイム」であることを見抜く(時間軸Nのクレアが目撃する)。ダグN-1はメモを転送する(時間軸N)が、そのためにラリー(時間軸N)が死亡するさまを目撃する。ダグN-1はタイムウインドウで(時間軸Nの)犯人と時空を超えたカーチェイスを行い、犯人宅を突きとめる。そこには衝突した救急車、焼け焦げた跡とワニに食われた死体があった。


犯人は追跡劇の後逮捕される。ダグは犯人を尋問したが、犯人はラリーの殺害を語るもののクレアの死については「お前も知っているだろう」と言って語ろうとしない。これは犯人がその後の展開、つまり「ダグN-2が乱入してきてクレアN-1がいったん救出されたこと」を知っていると見て間違いない。また、直接は語ろうとはしなかったが、その後クレアを奪回して殺したことも含んでいる。ダグN-2を犯人が殺したかは残念ながら分からないが、ダグが去る瞬間、犯人はなんと涙を流している。これが意味することは…??


ダグが見つけた証拠により犯人逮捕までこぎつけたが、納得がいかないダグN-1は研究者の手を借りて、クレア救出とテロ阻止のため過去へ戻ることにする。ダグ転送前のやりとりは日本語だと「やめるか?」「これは二度目だとしたら?」「(字幕なし)」だが、英語だと「こんなことを『する』必要はないんだぞ」「もう『してる』(過去を改編している)としたら?」「まぁそうだな」という感じになる。これはナイスな意訳だと思う

N回目

これが最後のループ、つまり映画の後半になる。また、映画中でタイムウインドウがのぞいているのも本時間軸となる。

クレアは誰かにのぞかれているような違和感を感じていた。そしてある日、赤いレーザーポインターの光が部屋に照らされるという事件が起こる。しかし原因は分からない。
本世界でも(先のN-1回目で送った)メモのためにラリーは犯人に重傷を負わされ、そして運ばれた先でラリーは焼き殺される(N-1のカーチェイス後目撃した通り)。なのでフェリー乗り場の駐車場には前と同じくラリーの車があるはず(具体的描写は無いので推測)。


その後、火曜朝にダグN-1が出現する。「心臓が止まるというなら、向こうで蘇生させればいい」という発想の転換で集中治療室へ時空移動して蘇生させてもらい、そこから救急車を奪って犯人宅へ突入。クレアを救出する。クレアの家でけがの手当てを受けるが、いったんは怪しまれて銃を向けられる。ATFへの電話による身元確認で信頼を得る。
しかしフェリー乗り場に向かおうかというそのとき、彼は部屋の状況が自分が捜索した先の時間軸とまったく変わっていないということに気がつく(まさしくデジャヴ)。ダグはクレアを時間軸N-1とは違う服へ着換えさせたうえで「2人で」フェリー乗り場へと向かうことにする。また、途中でクレアの友人ベスからの電話がかかってくるが、彼は電話を受ける前にベスの言葉を一字一句再現して見せる。驚くクレア。でも、電話に対するクレアの反応も時間軸N-1のときと全く同じものだった。
ダグN-1がフェリーに乗り込み爆弾を解除、クレアが警察に自首することで犯人を逮捕させ爆破を阻止しようとしたが、犯人の家にあった車がフェリー乗り場にあったことに気が付き、さっき殺し損ねた2人が来ていることを悟った犯人がフェリーへ戻る。クレアはそれを見てフェリーへ飛び乗る。


クレアがフェリーの駐車スペースに入ったところで犯人と鉢合わせ、クレアは車に閉じ込められてしまう。駐車スペースに来た警備員を犯人が銃撃したことでダグ・警備・そして犯人の銃撃戦がスタートする。ダグに気を取られている間にクレアが爆弾搭載車を発進させて犯人を動けなくしダグがとどめを刺して犯人を倒す。その後事情を知らない警備員に囲まれる二人。2人は車を川へ発進させて爆弾をフェリーから遠ざける。クレアは脱出できたがダグN-1は逃げることができず爆弾とともに爆死。クレアとフェリーの乗客たちは救われる。


救助されたクレアのもとに、何も知らない本世界のダグNが現れる。これぞデジャヴ。そしてエンディングとなる。


前に作った図を拡張した図。英語版Wikipediaにあったものを参考に記述してみた。ダグが何ループ経験したかは推測する事しか出来ない。映画の展開からすると少なくとも3ループは確実だろう。映像特典にジャッキー映画のNG集みたく、ダグの失敗談を集めるとかどうだろうなんという悪趣味。新しいほうの『タイムマシン』では少しだけあったけど。
黒文字は確実に起きた出来事赤文字が重大事項緑文字は劇中直接描かれていないが起きたであろう出来事を示している。青枠は映画の上映時間内で描かれた範囲。
(2010/06/27修正 どうもこの図だけが独り歩きして4ループしかなかったと捉えられがちなので、ちゃんと任意のN回ループに修正)
クリックで拡大する。

こう整理してみるとそこまで複雑なことはやってない(少なくとも、時間の流れが複雑で確定されていないことが多すぎるタイムパラドックス映画「プライマー」ほどじゃない)感じ。難しいのは「過去を覗いている」という設定でも描ききれない直接示されない部分があるためか。忠実に全ループを見せるわけにはいかない*2し。

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残る疑問点

  • 映画冒頭、死体袋で鳴る携帯電話は誰のものか?

携帯電話の問題だが、時間軸N-1だと科学者から「なるべく持ち物は軽くしていけ」というアドバイスがあるので、携帯電話を転送時に持ち込んだ可能性は低いんじゃないんだろうか。それに、「同じ携帯電話が同じ時間軸上に二つ存在するとどっちが鳴るのか予想がつかない」という『プライマー』でもあった問題がある。また、ダグの携帯電話の着信音は厳密には死体袋の携帯と異なる。また、死体袋の携帯がダグの電話を着信しているということは、生きているダグの方は携帯を受けることができなくなる可能性がある。クローン携帯は都市伝説だとか色々言われてるが、後のシーンで「おいおい、返事ぐらいしろよな」みたいなことを同僚に言われていないことからするとあれがダグの携帯であった確率はさらに低くなるとみていいだろう。映画冒頭の死体袋の携帯電話のシーンはミスリードを誘うために挿入された、もしくは単に事件の悲惨さを強調する描写のはずがミスリードになったという予感がする。完璧…ではないが自分の中では7割ぐらいの確率で。

  • 1時間ちょいでまたクレアを捕まえて指を切断して焼く、ということは可能なのか?

クレア友人の9:44の電話の際にクレアが生きているのは確実。そのあと死体が発見されるまでの間は9:44〜10:42と約1時間で以外と短い。扱いに慣れてる、着替えを持ってる、港の近くに倉庫とか持ってる、エトセトラエトセトラ。手際が良ければできなくはなさそうだが。意外と犯人自宅〜クレア自宅〜犯人アジトって距離があるように見えるが、実際どうなる?
また、結局犯人がどこでクレアに「再会」したのかも絞りきれない。少なくともクレア自宅は(自宅から連れ出したのだから)犯人に割れてるので安全ではない。
ちなみにクレアの死体の右耳にはピアスがあるが、左には無い。その片割れは犯人の自宅爆破跡からみつかる。映画後半ではどうだろう…と思ったのだが、ダグと自宅に帰ったクレアの左耳にはピアスが無い。つまり、ピアスが取れたのは犯人拉致の一回目のときであることが分かる。…2回目拉致の後どこで殺害されたか分かる大きなヒントだと思ったんだがなぁ。

  • N-1回目以前の時間軸でダグはどうなったのか?

死体に関しては、爆発に巻き込まれた場合は「生きている人間のデータはないので、捜査本部には身元不明死体が一体残っている」か、「爆弾の近くにあったため損傷がひどくて身元確認ができない」、もしくは前妄想したように「ダグの死体は発見・確認されたが、タイムウインドウの存在がバレると困るお役人たちが秘匿している」のか。まさかね。どうかな。
一方、爆破現場とは別の場所で犯人と交戦して死亡したならば、犯人がまったく違う場所に遺棄したのだろう。クレアと一緒に始末されたのなら、わざわざ別にしたのはなぜかという疑問が残るが。

感想

自分のここまで考察してきて抱いた感想について触れておこう。本映画は時間ものとしては及第点だと思うが、斬新な事をやろうとした割には普通になってしまったなという感じがする。完全に分け隔てられた二人が事件解決に奔走する話なら、本作のカヴィーゼルも出演する映画で、現在と過去がオーロラによる異常でアマチュア無線が繋がって親子がタイムパラドックスから生じる変化を元に奔走する『オーロラの彼方へ*3などちゃんと存在する...と思ったが、あれもラストは「つながり」を持たせている。監督の初期の構想だとダグは過去に行く事は出来ないだろうが、ダグがわざわざ過去へ行かなくても事件を解決するというのはやっぱりハリウッド的にはマズいのかなーと思ってしまうと何だかこうすっきりしないというか。まぁ、「本世界ではクレアは死んだが、あっちでは生きてる。それでいいじゃない」なんてのは極端に拡張すれば多世界解釈を持ってきて「どれかの宇宙じゃクレアは幸せに無事で過ごしてるわけだから、ジタバタしたってしょうがあるめぇ」というのを許容する話になってしまってそれはそれでマズいのだが。

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タイム・ウィンドウという画期的なシステムのビジュアルは『マイノリティ・レポート』に匹敵する面白さだった。しかしコメンタリーでも出てくるが、時空を超えたカーチェイスにおけるゴーグルの視界と現在の視界が同期しないというのが非常に惜しい。AR(拡張現実)でも、過去の世界を現在の世界に合成する技術が模索されている訳で、も少しそこにこだわれば、違和感なき「二つの時間軸」を平行に現実上に並べる面白いシーンになったのではないかと思った。それまでのタイム・ウインドウの表現が凄いだけに。しかしあんだけ派手に民間車両に迷惑かけてどう言い訳したんだろう。『アイランド』で、都市を破壊しながら逃げ回るクローン逃亡者二人組と同じような主人公に対する同意できない感がちょっとだけする。
デンゼル・ワシントンの冷静沈着モードとブチ切れモードの切り替えは唐突かな―とは思いつつも、「過程」を大事にするさまを本職のATF捜査官から学んだというだけあって足で稼ぐところや、人が気がつかない点に突っ込むところなどはなかなかサマになってると思う。そういえば、バーチャル犯罪者がナノテクノロジーの力を借りて現実世界に逃げ出す『バーチュオシティ』なんて映画もあったな。あれもデンゼルがSF犯罪捜査モノ。あっちは刑期中*4というハンディキャップだったがこっちは時間の壁。そういうのが好きなんだろうか。クレア役のポーラ・パットンは初登場が死体という役回りだが、ハッとくる美しさが掴みの展開に成功している。犯人役のジム・カヴィーゼルも出番は少ないものの、その掘りの深い顔で強い印象を与える。一方で捜査官のヴァル・キルマーはあのアイスマンがこんなことになったとは信じられない変貌っぷり。役者を跡で知って非常に驚いた。

コメンタリーでの発言

映画の根本につながる発言もいくらかあったりするので、気になる人はDVDもチェックされたい。特典メニュー「監視の窓」がそれ。

デジャヴ [DVD]

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  • 「難しい映画だった。一歩間違えれば最低のSF映画になってしまう」「現実的理論を強調した」
  • 「初期案は恋人を事件で失った刑事が過去を見るマシンで事件を捜査する中で彼女との日々を思い出すというもの」
  • 「監督は実際の科学で出来るものでストーリーを作ろうとし、脚本家はSF的なほうにシフトしようとした。議論は絶えなかった。」 つまり、監督としては本作はSF映画じゃない。結構無茶な感じだが。
  • 「タイムウィンドウの元ネタはロンドン爆破テロの際の事件現場を複数の角度から見た映像。」「当初はかなりSFチックだったセットをかなりいじって現実にありそうなものにした。」
  • 「デジャヴを感じる時=デンゼルがタイムウインドウ画面に映り込む時。」
  • 「国家機密を簡単に漏らすのはまずかろう、ということでスパイ衛星での嘘をつくことにした。それに対する疑念を描写する事でダグの賢さを強調。」
  • 「劇中に登場する技術者のモデルはブライアン・グリーン(物理学者)。演技も真似てる。」

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する

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  • 「衛星画像じゃ上からしか見えない。監督権限でジョイスティックに寄る自由自在な視点操作を挿入した。思い切った判断だったが躍動感が元脚本より出た。」
  • 「特徴的なタイムウィンドウの解像度が低いときの画像はレーザー測距儀を使用。データ入力後、画像を貼付ける事で3D画像になる。」
  • 「タイムウィンドウなしに解決できない事件にする、というのは確定事項。ただしタイムウインドウも手段の一つでしかない。」「現実の操作技術(映像照合など)がそれを支え、真実みを出す。」
  • 「ダグの誤りが相棒を死に追いやるという展開はプロット初期に思いついた。」「だが、ダグの誤りが彼女を死に追いやるという展開もありうる。観客がダグの落ち度でクレアが死んだと思わせるのはさりげなく示すだけにした」 バタフライ・エフェクトがそういう話でしたな。
  • 「トニーはSFにするのを嫌がり、衛星監視システムのみにしようとした(転送には別のマシン)」「真実の科学、脚本家のSFの対立があった。私のSF的な部分に対する懸念は絶えなかった。難しいところだ」
  • 「自分たちの脚本に対する議論を映画にも反映させた。」(ダグがレーザーポインター照射後にブチ切れるシーン」
  • 「タイムトラベルに必要なエネルギー(電力)をグリーンに聞いた時、東海岸の半分が四日間停電したときを思い出し、これは使えると思った」
  • 「要はこの話(タイムウインドウのカラクリ)を信じてもらえるかだ。理解できる筋書きでなければダメだ。これは完全なSFで無い限り重要だ。科学的な作品を目指して専門家を呼び、脚本家から観客へ伝わる。」
  • 「帰還する理由と結末を明確にするための追加撮影もした。理由は2つの理論に基づく グリーンの専門の一つ、平行宇宙論。そしてもうひとつは多層宇宙論。」「好きな方の理論を選べ!とグリーンには言われた。試写後『この映画は俺の宣伝だな』と言われて、それは最高の褒め言葉だった。」
  • 「転送装置はお察しの通りタイムウインドウ大画面の裏にある。」
  • 「本作はどうもいまひとつだ ゴーグルの映像とデンゼルの視点を合わせるには時間が足りなかった」
  • 「当初、『捜査官と名乗る男に救急車を奪われた』という証言を入れる予定だったがカットされた。」
  • 「撃たれて焼かれてるのに仕上げにワニに食わせる とトニーは言った」 つまり、ワニに食われてる死体はラリーで確定
  • 「もっと被害者女性を重要人物にする予定もあった(大統領関係者とか) だが、普通の女性にこだわった。」
  • 「ダグは焼け跡から見つけたクレアのピアスで死を予感する。最終目的地はココ(犯人の家)だ。」
  • 「犯人は究極的な運命論者」「キリストのイメージ(本人は『パッション』を払拭したかったようだが)」
  • 「根底となる考え:運命を止めようとすれば、かえって引き金になる」
  • 「本作は同時多発テロに触発されたか?いや、もっと前からやっていた。でも、追悼式の映像、祈りの映像は必ず入れたかった。」
  • 「元の脚本でも同じ機械で人も送るとなっていた。MRIを研究して装置に反映させた。」「私は現実的なものしか使わない」
  • 「人も物も送信できるのになぜ使わない?そういう規則になっている、では観客は納得しない。」「そこで生命は送れないという絶対的障害を作った。恋のためならと大きな障害を乗り越える恋人たちという風にする。命の危険なら絆が深まり物語的にも重さが出る。」
  • 「トニーは裸で登場がいいと言ったが、それだと『ターミネーター』まんまなので折衷案として下着になった」
  • 「直接フェリー乗り場に行かず、自宅へ行く理由としてダグの負傷がある。」

などなど

ノベライズ

10/07/10追記

デジャヴ (竹書房文庫)

デジャヴ (竹書房文庫)

ちゃんと「脚本家が書いてる」ノベライズなので、映画の流れを親切丁寧に追っている。はっきり言って自分の図より分かりやすいという人もいるんじゃないかと。
ノベライズで分かる情報としてはつぎのようなものがある

  • フェリー「スタンプ号」の出航時刻は10時45分
  • 「死体袋の携帯電話」はダグはあっさり流した!「あの携帯を受け取る人間はもういないだろう」 つまり、死体袋の携帯電話は99%ダグとは関係ないということでよさそう。
  • メモを他人に書かせた理由=自分の筆跡だと混乱してなおのこと信じてもらえないから
  • オースタッドが指を切断した理由=引っかかれたときに爪の間に入った皮膚からDNA鑑定されることを恐れたため。
  • 巻末では『イルマーレ』『オーロラの彼方へ』のほか、死者に魅かれるという設定から『ローラ殺人事件』が紹介されている。

というわけで自分としてはこんな感じですが、疑問点・ツッコミ・ミス等ありましたらぜひコメント欄にどうぞ。
(ちゃあしう)

*1:映画中には出てこないが、犯人によって殺害されてテロを阻止できなかったダグもいるんじゃないかな

*2:禁句:エンドレスエイト まぁ、一万五千四百九十九回繰り返さなかっただけでも良しとしなくては…

*3:これは時間軸がひとつしかなく、リアルタイムに過去改変が現在に影響を与えるタイプ

*4:テロリストに妻子を拉致され、眼の前で爆破されたため犯人を射殺。さらに返す刀でそのテロリストに「特別密着取材」していたテレビ関係者もブチ切れて殺してしまったため収監されているという設定。