J・P・ホーガン死去
1月にはSF翻訳&研究家で作家でもあった柴野 拓美(小隅黎)氏がお亡くなりになっていましたが、今度はジェイムズ・P・ホーガン先生までもがお亡くなりに。ミステリ扱いすらされる『星を継ぐもの』は言うに及ばず、その跡を継ぐ『巨人たちの星』シリーズ3作、『創世記機械』、『造物主』シリーズに『断絶への航海』、『未来の二つの顔』に『未来へのホットライン』… 今でも色あせない名作の思い出が蘇ります。
まぁ、その分方向転換した時は「あれれ?」になりましたが。『衝突する宇宙』も『巨人』シリーズを読んでからだいぶ後に知ったクチ*1ですが、『揺籃』でいつもなら軽い口調で笑い飛ばしてくれそうな話題を大まじめにやっていると聞かされるとなんだか不安になったというかなんというか。クライトンが『恐怖の存在』を書いたときに近い驚きがありました。あと、個人的には『量子宇宙干渉機』で、世界に対する見方と態度が大きく変わっていたのがかなり衝撃的でした。いつものホーガンならこんなはずじゃ…
とはいいつつも、それで初期作品の価値が下がる訳ではないし、自分は後期の作品でも『時間泥棒』『内なる宇宙』とか好きです。そして何より、自分は巨人シリーズ第5作、『Mission to Minerva』が読みたいっす。なんと過去のミネルヴァに飛んでしまうという話と言うことで期待がいやおうにも高まります。創元社の方、ぜひ検討してください…
とりあえず「じゃあ今からホーガン読むなら?」と言われたら基本は『星を継ぐもの』か『創世記機械』かというところですが、他に読むなら手に入りやすさと読みやすさの2基準でセレクト。
手に入りやすさなら『断絶への航海』とこちら。タイミングが偶然重なっちゃって気まずいけれど
- 作者: ジェイムズ・P.ホーガン,James P. Hogan,小隅黎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/10
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
ナチスドイツと日本が米国と冷戦状態にある「もうひとつの」1970年代。ケネディ大統領は科学者たちを結集し、過去を改編してナチの恐怖を一掃する「プロテウス作戦」を決行する。ところがこの計画、実はナチスの同じ計画の焼き直しだった。つまり、ナチスが世界を征服できたのは未来からの干渉だったのか??部隊は英国グループと米国グループに分かれ、政治的干渉を開始するとともに「現代」へ帰還するための装置の組み立てを進めながらナチス側の改変グループを追うのだが、やがて「現代」との通信や通路が開かないトラブルが露呈し…
「ホットライン」と本書がホーガンの時間物だけど、こちらは過去が舞台と言うことで「仮想戦記」とまではいかなくとも歴史改変ものなので実際の人物がたくさん登場するのが特徴。あのポール・フレンチさんまで出てくるぞ!しかも彼のあるものがあんな人にヒントを与えるという超展開。でもせっかくなのでもっとお祭り騒ぎしてほしかったな。イギリスにも格好の人材がいるではないですか。何はともあれ、今ではおなじみの量子論的考察、実際の科学史との接点が丁寧に語られる。戦争やってるわりにはアクションあれだけ?という意見もあるかもしれないけれど、そこはあくまで「特殊部隊」ですので。時間物ゆえの感動演出、そして作戦決行の「真の理由」も忘れられない。この辺りから主眼は変わってくるけれど、根は変わってないことを今一度読んで再確認させられた一冊。
ホットラインについてはいずれ考察を書く予定。というか、あんなADVをやったら「書かざるを得ない」が。
- 作者: 星野之宣,P・ジェイムス・ホーガン
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/03/12
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 31回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
本作以降にステレオタイプな反乱AI出してる作家はちょっと反省しなさい。ホーガンも褒めた改変エンディングも一見の価値あり。もちろん小説も忘れちゃいけない。漫画版にはアンコムが出てこないんだよね。ダイアー博士、ああ見えてかなり強いんだぞ。
というわけでホーガン先生、クラークの爺さんにソーラーセールが開いたことを報告してやってください。ミネルヴァにはいずれまた『はやぶさ』後継機を飛ばしますので応援してやってください。そしていつしかUNSAのような理系人間の楽園ができることを祈って。R.I.P.。
余談:「酸化第二鉄」の小びんを研究室にいつか置こうと考えていましたが、シミュレーション系に入ってしまい果たせずじまいに。実際にやってたら事故の元でしょうけど。
(ちゃあしう)