杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

シャトル・フィクションズ 第五回 シャトル軍事利用の夢と現実 「シルヴァー・タワー」 「イントレピッド号強奪指令」「キンズマン」

スペースシャトルを巡る物語、今回はシャトルの軍事利用を巡る話を紹介しよう。スペースシャトルの登場で人工衛星の打ち上げだけでなく、その補修や部品交換が行えるようになったことは一方で衛星の大型化*1を生むが、その一方で「宇宙の軍事利用」に大きな可能性を示すことになる。軌道修正が多いため一般に寿命が短い偵察衛星の運用期間をのばし運用コストを下げる、軌道上に大型の拠点を建造する、そしてあわよくば敵国の衛星とランデヴー、これを持ち帰る…。
こんなわけでソ連は当初からスペースシャトルを「宇宙兵器」として見ており、宇宙条約違反だと公然と抗議していたのは有名な話。折しも長期宇宙滞在を可能にした新型オービター「アトランティス」の就役とレーガン大統領による「戦略防衛構想(SDI)」の発表によりシャトルは本格的に軍事利用へと踏み込んでいくように見えた。実際に国防総省が主体となるミッションが複数回行われた事でソ連側は抗議の声を荒げ、かねてよりアメリカに対抗して進めていた弾道ミサイル迎撃用レーザー実験施設「Terra-3」による「攻撃」を決定。STS-41-Gでのシャトル「チャレンジャー」に対して弱出力レーザーの照射が行われ、機器の異常や乗員に不快感が生じたと言われている。つまり、この時期であればいつでも宇宙での米ソ衝突は発生し得た と言えるかもしれない。しかし、その状況はチャレンジャー事故で一変する。
どこぞの宇宙漫画ではパパラッチ達が「シャトルミッションの数割は軍事目的で内容は極秘だ」と宣っていってたが、そんだけ打ち上げる暇がそもそもない罠。小学生ぐらいのときに図書館で読んだ図鑑には、スペースシャトルに戦闘機タイプの酸素マスクを装着したパイロットが乗り、東側の敵性衛星と激しいドッグファイトを繰り広げている(!)謎の一枚絵があったがあれは何処の出版社のだったんだろうか。

*1:プラットフォーム化 日本もその流れに乗ったが、今では中型小型衛星の多数打ち上げにシフトしている

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今年の総決算 ベスト2010

毎年恒例企画…


やっぱり俺しかやってないけどな!!!!
今年は自己への敗北を喫し、その夏以来ロクな映画も本も…という状況が苦々しいところです。

映画

・第9地区
インセプション
イヴの時間
月に囚われた男
涼宮ハルヒの消失

8月以前(とくに春)ばっかりだったりする。ブロンカンプの新作の知らせはまだかな―
寝ざめの「キック」はもっと流行っていい(またそこか
ビデオありなら『WALL・E』、『ダークナイト』、そして晴れてDVD化の『宇宙からの脱出』『地球爆破作戦』が見ごたえありでおすすめ。

・天冥の標1〜3
天地明察
スワロウテイル人工少女販売処
・クォンタムファミリーズ
・星の世界から見てる
ぶー、少ない。個人的には『スワロウテイル』の人と被創造物の関係から『クリスタルサイレンス』もかくやな話へ展開するあたりがなかなか良いと思う。天地明察はジャンル問わずおすすめできる。
ラノベだとベスター調の描写が光る うえお久光ヴィークルエンド』、相変わらずエスコン節前回の南井大介『小さな魔女と空飛ぶ狐』が印象に残っている。『ミラーズエッジ』なパルクールビル屋上バトルレース、ガンシップストーンヘンジのレールガン対決が見られるのはここだけ!(俺得
描写ではジューラヴリークなのに国はドイツ調ってのはすこし気になるところだが。まぁソヴェートなフィクション国家ってラノベにはちょいと難しいよね。
海外作品ではナンシー・クレス『アードマン連結体』なんかが往年のティプトリーを最新科学でマッシュアップしたみたいで好みだった。アンソロジー系では『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』が好きなんだが、実現しなかった話系やニセ科学にハマって宇宙に向かない民衆の話とか色々な意味で泣ける話が多いように思うのは気のせいか。テッド・チャン作品は今年も抜群の安定感。時間アンソロジーで一話だけ登場した『去りにし日々の光』は復刊に期待。

ゲーム

S.T.A.L.K.E.R. 3部作
Steins;Gate
デウスエクスインビジブルウォー
Ever17
・FALLOUT3

STEAMで年末年初めに買った「ストーカー」シリーズにMOD含めて何時間食われたことやら。二度目の謎の爆発で閉鎖されたチェルノブイリで激しい生存競争を生き抜くオープンワールドFPS。リアルな銃器と放射能・出血・そして謎の物理現象「アノマリー*1などの過酷な生存条件がマゾ心を刺激?する。ストルガツキータルコフスキーと「幸せ」の基準が大きく異なるところ、モノリス作成の真の目的などはSFファンにも結構興味深いところだと思う。FALLOUTアメリカン廃墟とも結構対照的。

本編で同業者がたむろしている「100 Rad Bar」*2で流れている曲。いつ聞いてもいい曲だ
FALLOUT 3では『火星年代記』のアレの再現ステージや博物館のプラネタリウムなどがぐっときた。イエナさんしかいませんが
インビジブルルウォーは日本語目当てに旧箱をゲット。たしかに旧作から消えた部分もあるけれど、いつでも改造機能を入れ替えられるあたりはバイオショックにも受け継がれてるのではないかと。そしてどれが一番よいか分からないエンディングも良い。来年のヒューマン・レボリューションにも期待しちゃうぞ。それなりにだが。
名作ADVと最新ADVの二本コンビも噂にたがわぬ傑作。ただしそれゆえに賢者タイムが長引いた。
シュタインズゲートについては先日のエントリを参照
http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/20101230

特別賞

小惑星探査機はやぶさ
・ソーラーセール実証機イカロス
日本宇宙大航海時代の幕開け。あかつきくんも頑張ってください。

ガジェット

・未来ガジェット8号機 「電話レンジ(仮)」&「タイムリープマシン」(Steins;Gate) 
今までにない発想で偶然できちゃったタイムマシンとそのさらにトンデモナイ応用品
36バイトしか送れないってところが特にいい。

世界線変動率計測器「ダイバージェンスメーター」(Steins;Gate) 
ブラウン管よりニキシー管萌え。ついにはこんなものまであるしな!
http://gfuture.web.fc2.com/soft.html#divclock
これで君のZERO3もダイバージェンスメーターだ!

・Vinter BC狙撃銃(S.T.A.L.K.E.R.
正式名称「VSS Vintorez(ヴィントレス)」 9x39mmによる亜音速ながら強力な打撃力を持ちそして連射が効くという夢のようなロシア製自動消音狙撃銃。キシュッ!という発砲音も良い。ただし、使用目的はロシアのことだから「体調を崩して辞任」とか「交通・飛行機事故」のためだろう。ブルブル。
プレイ前はドラグノフいつ出るんだよ、と思ってたけど結局VSSで済ませてしまった。ただ、最後のほうで手に入る#62こと、「とある組織の狂電磁砲」もといガウスライフルもなかなかいいビジュアル。露出したソレノイドコイルとコンデンサーの充電音がいい(そこか

・リバティ・プライム(FALLOUT3) 
アメリカが中国との戦争のため用意していた自由主義陣営未完の最終秘密兵器。
その正体は目からビーム、背中からは核弾頭を出して手でつかんで投げる二足歩行の巨大ロボットだった!!
そして味方を鼓舞するプロパガンダ発声機能付き。

音楽と合い過ぎです。

・エビのエクソスーツとその他「パワードスーツ」全般(第9地区・FALLOUT3・S.T.A.L.K.E.R.など)
現実世界でもパワードスーツ元年だった印象がある。エビスーツはいいねぇ。弾キャッチをゲームでも使ってみたい。
個人的にSTALKERのあの肉はさみそうで怖い強化外骨格も味わい深い。軍が試作したけど量産は諦めたものを職人が手作りしてるらしい。ウクライナの外骨格職人の朝は早い…ってマジぱねぇ。でも事故が怖い。

・独楽(インセプション) 
お前は夢から醒めているのか?
ブルーレイ特別版にはもれなくついてくるそうです。ちゃんと回し始めたら止まるんだろうね?


来年は「自分に勝ち」、規律ある正しい人間として世に出られるようにしていきたいと思います
暇は今以上に無くなるでしょうけどね…
それでは皆さん、良いお年を。
(ちゃあしう)

*1:ちゃんと原作の「肉挽き機」や「蚊の禿」のような効果があり、何も考えずに踏み込むと持ち上げられてバラバラにされる

*2:放射線吸収量が名前の由来というブラックな場所。レントゲン撮影1000回分だから体にはあまりよろしくないだろう

「Steins;Gate」の後はこれを見ろ! ゼロ年代時間テーマ映画セレクション

先に「『Steins;Gate』は『時間もの』を良く研究している!」と言ったけれども、じゃあ他の『時間もの』って何なのよという人もいるだろう。トゥルーエンドを迎えて賢者タイムに入ってしまった人も(自分も結構長かった)同じような話をさくっと楽しみたい人も多いはず。というわけでシュタゲ後(もちろん先でも可。より楽しめる)におすすめなタイムトラベルや特殊な時間を扱った作品群を紹介していこう。  ...といっても、そういう作品はたいていSFであり、SFオタってのはとかく前提知識だ古典だとうるさい説教をするものだと言う先入観をもたれているし、肝心の当人達がそれに囚われがちだったりするもの。そうなってもウザいだけなのでここはあえて「古典」抜きでいってみよう。90年代〜ゼロ年代に絞って紹介する。


バック・トゥ・ザ・フューチャー』『時をかける少女』についてはあえて触れなくていいよね!というか前者に関して言えば、子供のうちに見たことない人いないよね!
戦ごk…についても個人的には小説の方が「歴史がこんなことをする理由」が説明されていて好きなので割愛させていただきます。

星マークはお勧め度、ではなく「難易度」なのでご注意を。けっこうややこしい話が多いので。

バタフライ・エフェクト

難易度 ★★☆☆☆(分かりやすくてせつない)
子供の頃から記憶障害を患い、うまく思い出せない日々が多い主人公。だが不意に思い出した一言は巡り巡って幼なじみの死を招いてしまう。必死に記憶を探る彼はやがて、過去の自分の日記を読む事で「その時点に戻る」という能力に気がつく。これを使えば彼女を救えるはずだったが、彼の過去改変は空回りしはじめ、うまく彼女を幸せにする事が出来ない。いったいどうすればいいのか... それでも彼はまた過去を目指す。
ちょっとエグい描写も多いが、幼なじみのために何度でも過去に戻ろうとする主人公の行動には心動かされるはず。

もう一つの非常に衝撃的なエンディングはレンタル版にはない(昔書いた気もするけど大事な事なので二回言いました)ので注意!映画の結末はトゥルーエンドを思い出す人も多いようだけど、個人的に結論自体はフェイリスエンドに近いと思うがどうか。

サマータイムマシン・ブルース

難易度★☆☆☆☆(お気軽にどうぞ)
SF研だというのに本も読まず、パラドックスのパの字も知らない仲良しグータラ大学生達。そんな彼らの前に、ある日突然未来からタイムマシンが出現する。せっかくなので数日前に壊してしまい、動かなくなったエアコンのリモコンを取ってこようとした彼らは、やがて生じる大混乱を収集せねばならなくなる。
ドタバタ喜劇。でも収拾の付け方や後味もちゃんとしている。個人的にリモコン直せない担任の話がちょっとくるものがある。昔「工学部だろ!全自動卓ぐらい直せ!」と無茶ブリされたことを思い出す。
古典的ではあるが、やっぱりタイムトラベルは夏と相性がいい。ハルヒのタイムトラベル関連エピソードも消失を除けば夏だし。

オーロラの彼方へ

(追記:入れようと思って完全に失念していた)

オーロラの彼方へ [DVD]

オーロラの彼方へ [DVD]

難易度★★☆☆☆(SFにサスペンスと家族愛が程良くミックスされた良作)
 1969年、ニューヨークでも観測できるほどのオーロラが空を彩る中、ニューヨーク・メッツを愛する消防士フランクは綺麗な奥さんと立派な息子「ちび隊長」ことジョンに支えられながら幸せな毎日を送っていた。消防活動と言う危うい仕事を続けながらも、その幸せは永遠に続くかに見えた。
 打って変わって1999年、30年ぶりのオーロラが輝く下で、かつての少年ジョンはやさぐれた刑事になっていた。親父のフランクは消防作業中の事故で亡くなり、肩を壊して野球への夢は絶え、奥さんとは破局し、かつての未解決事件「ナイチンゲール殺人事件」の遺体が発見されて仕事は増え…と人生は陰鬱の中にあった。
 そんなあるとき、親父の遺品である無線機をいじっていると、聞こえて来たのは懐かしい声だった。夜や太陽活動の変化でいつもは聞こえない無線が聞こえてくることはたまにあるが、今回はオーロラが未知の現象を引き起こし30年前と時空をつなげてしまったらしいのだ。ジョンは警告を送って父親の事故での死を回避させることに成功する。しかし、今度は過去を変えすぎた。一種のバタフライ効果により、今度は母親が当時の連続殺人の標的として殺害されていたことになってしまったのだ。過去と現代、二つの舞台で繰り広げられる追跡劇。果たして親子は連続殺人犯を止められるのか?
 野球をこよなく愛する二人の連携プレーが見もの。過去と未来で交信は出来るが、物は送ることができない(はず)。果たしてこのギャップをどう解決するのか?犯人にハメられ、警察に拘留されてしまった親父、そして途中で壊れてしまう無線機。そして現代で静かに隠れていたはずの殺人鬼も、ジョンの捜査に気が付いて行動を起こす。2人の運命は?アットホームなドラマにサスペンスが突如入ってくるのはビックリだが、時間の隔たりをアイデアで切りぬけていくスキのない脚本は見事。
ネタバレ注意だけど一つだけ気になることが。「バタフライ効果で野球の結果は変わらないのか」 まぁ、それをやっちゃうと途中で刑事を説得できなくなるのでマズいのだが。

『デジャヴ』

デジャヴ [DVD]

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難易度★★★☆☆(ちょっくら複雑 だが、シュタゲほどではないはず)
フェリーを狙った大規模爆弾テロが発生。捜査官ダグ・カーリンはあらかじめ焼かれて爆破テロの被害者に偽装された謎の女性の死体を発見。彼女の車が爆弾テロに使用された事から重要参考人として調べようとするが、彼は女性の顔にどこか既視感を感じるのだった。その頃、米国防総省は特殊な監視システム「タイムウインドウ」を開発していた。指定したエリアの4日前の風景を切り取って表示できる画期的なシステム。タイムウインドウによる極秘の捜査チームに参加したダグは、問題の女性をマークする事にした。やがて彼は生前の彼女に惹かれていくとともに、このシステムの仕組みに疑問を持つ。この装置が映し出しているものとは何なのか?

テロを扱った現代サスペンス... の皮を被ったタイムトラベルもの。しかし、道具立てが非常に現実的に描かれているので、確かに監督の言う通り単なるSF映画とはちょっと違った雰囲気を醸し出している。とくに過去の犯人とのカーチェイスなどは(ハタから見れば大迷惑だが)。
深く考えていくと結構重大な事に気がつくが、そのあたりは先日金曜ロードショーでの放映に合わせてアップした本記事を参照してほしい。そのことまで気がついてるシーンがあれば... おそらく完全にSFと化してしまって誰も付いてこないか
>「やっぱり見ていたような雰囲気 「デジャヴ」時間軸解釈完結編?」
http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/20100616/1276705558

『プライマー』

プライマー [DVD]

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難易度★★★★☆(なかなか難解 自分で表を書いてみないと??)
ガレージベンチャーで一攫千金を夢見る男達。彼らが作り出した超伝導装置を組み込んだ「箱」は、一種のタイムマシンだった。だが、タイムトラベルを行えば、必ず生じる問題があった。過去に戻ったときに生じるもう一人の自分「ダブル」の存在。逆転の発想でこの問題をうまく回避したつもりの彼らだったが、やがて記憶にない事件が次々発生する... どちらかが勝手にマシンを使ったのか?二人の男達は、混乱の中へと巻き込まれてゆく。

ガレージベンチャーでの(半分趣味に近い)発明稼業、箱の中に入れたある物体の変化がタイムマシン発明へのきっかけというあたりはいかにもシュタインズゲートを彷彿とさせる。しかしタイムトラベルの度に分身が勝手に増えていき、いったい何が起こったのかに関して今でも議論があるほど事態は複雑化してしまう特異な構成をもつ独特なテイストの作品である*1。混乱する話はイやんという意見もありそうだが、ちょっと頭を絞ってみるのもおもしろいかと。自分がこの手の映画を好きになり、自分で映画見ながら時間軸表・タイムラインとか引いてみるきっかけになった作品でもあります。紹介してくれたミス研の某氏に感謝。


そうそう、正確にはゼロ年代じゃない(1993年公開)が、シュタゲ関連映画といったらこいつも紹介せねばなるまい。

『恋はデジャ・ブ』

恋はデジャ・ブ [DVD]

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難易度★★☆☆☆(単純に見えて、意外と深い話。隠れた名作として今も有名)
自意識過剰なお天気キャスターは春の目覚めを占う珍しい祭り「グラウンドホッグデー」の取材のため、クルーとともに飽きるほど来た街へ向かう。祭り当日、しつこいセールストークを繰り広げる旧友に会ったり溝に脚を突っ込んだり冷たいシャワーを浴びたり吹雪で動けなくなったりと色々ツいてない取材を終えて翌朝起きると... また祭りの当日の朝になっていた!彼は同じ祭りの日を繰り返す街に閉じ込められてしまったのだ。しかもそれを意識しているのは彼ただ一人。他の人間はいつもほぼ同じことを繰り返しているだけ。飽き飽きし始めた彼は、やがてループを逆に利用して羽目を外し始める。だが、それも長続きはしなかった… はたして彼の運命は??


われらが阿万音氏が見た映画として本編で紹介されているもの。いわゆる「時間の無限ループ」にはまり込んでしまった男の悲喜劇という趣だが、ループを重ねていくにつれ得られる知識をアコギな事に使う・悲観する・そして... と変化してゆくビル・マーレー演じるレポーターの心情変化はなかなか見事だと思う。
(ここからゲーム本編のネタバレを含みます)
阿万音氏の本作に対する評価は結構厳しいが、これは彼女が彼女の世界で厳しいサバイバル+戦闘を続けてきて、責任感が強いのと無関係ではあるまい。だからこそ2000年に自分が何もしていなかったことに「気づいてしまった」時に自分が許せなくなって悲劇に繋がってしまったのではないか。そう思うのであんまり本作をディスったことについては責めないであげてほしい(阿万音氏の親父さんとの約束だお!)。 
あと、世界線変動率表示がロシア風味なニキシー管なのは由来不明だけど*2タイムリープマシンの時刻表時がパタパタ時計なのは本作の影響である事に間違いは無いだろう。
…というか正式名称「パタパタ」でいいのかっ! 初めて知った。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%BF%E3%83%91%E3%82%BF%E6%99%82%E8%A8%88


これら以外にも『イルマーレ』『ある日どこかで』『タイム・アフター・タイム』と様々な時間と恋愛を絡めたテーマの映画があるのでこちらもぜひぜひ楽しんでもらえるといいのではないかと。では。
(ちゃあしう)

*1:古典SFで言うところのハインライン「時の門」タイムトラベラーが3人いるせいで矛盾が解ききれないVer とでもいうべきか

*2:昔の調理機能付き自動販売機には結構ニキシー管が付いていたらしい。あと細田守版『時かけ』では某社の目覚まし時計の赤いLED表示だったけどそのあたりか

選択者は混沌の時間線を迷い 「Steins;Gate」

XBOX360版もやったけど、PC版を買った俺が通りますよ。というわけで珍しいADVのレビューをば。ネタバレは極力抑えてあります。

      シュタインズゲート
それが、運命石の扉の選択か。
エル・プサイ・コングルゥ

Steins;Gate (シュタインズ・ゲート) (通常版) - Xbox360

Steins;Gate (シュタインズ・ゲート) (通常版) - Xbox360

STEINS;GATE

STEINS;GATE

2010年、秋葉原厨二病から抜け出せないでいる大学生、自称狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真」こと岡部倫太郎は幼なじみや同級生とともに「未来ガジェット研究所」なるサークルで役に立たない発明品を作っては高笑いするヘンな毎日。
そんな中、彼はUPXで一人の少女と出会う。サイエンスに論文が掲載されるほどの脳神経研究の第一人者である天才少女、牧瀬紅莉須。だが、岡部はUPXの前に彼女に一度会っていた。ラジオ会館で血まみれになって動かなくなっていた彼女を目撃した、という形でだが。しかもその事実を友人に伝えるメールは5日前に届いていたという。いったい何が起こったというのか?
調べていくうちに、岡部と彼の仲間の発明品、「電話レンジ(仮)」は偶然にも過去にメールを送信する機能を備えていたことが判明する。じゃんじゃんメールを送って過去を変える実験を始める岡部たちだったが、やがてその安易な行動は取り返しのつかない事態を招いてしまう。
ラジオ会館に突き刺さった謎の人工衛星、ネット匿名掲示板に現れた自称未来人「ジョン・タイター」、岡部と周囲の間の断絶した記憶、ヨーロッパの大型研究機関SERNで進められる陽子衝突実験の真実。夢の機械を発明してしまった事で、人類の大きな転換点を託されてしまった彼の運命は?


第一感想は「本当によく時間ものを研究してあるな」ということ。タイムトラベルが生み出す問題と、その解決策を定石通りにたどりながら「想定」とサブタイトルにある通り、ではタイムトラベルを理論的に考えた場合どこまで現実世界では迫れるかというものを用意したうえで、そこに少しずつフィクションを加えていくことで現実からさほど遊離していないもっともらしい独自のタイムトラベル理論*1が構築されていく。そもそも、あのネット時代の都市伝説をうまく落とし込んだもんだ。ただし、それにガジェットを合わせるためにIBM5100の利用法だけは無理矢理な感じがしなくもないが。ジョン・タイターに関してはネット上の話題だっただけにネット上を漁ればいくらでも情報が手に入る。予習しておくと色々面白くなる。

未来人ジョン・タイターの大予言―2036年からのタイムトラベラー (MAXムック)

未来人ジョン・タイターの大予言―2036年からのタイムトラベラー (MAXムック)

時間という大きな障壁の前に主人公は決断を迫られていく。変えてしまった過去それぞれに、変えた人間の思いが込められている事を知った岡部は苦悩することになる。過去改変はある出来事を「なかったことにする」能力。だが、それを自分からは「なかったこと」にすることはできない。そして究極の決断がやってくる。未来を救うための代償は大きい。何かを犠牲にしなければ得られないものか。最後には、それでも主人公は挑戦していくことになる。その過程で(かつては恥ずかしいと思っていた)厨ニスピリットが自身を鼓舞する、という驚きの展開を見せる。あれだけウザかった言動がまさか最後にはあんなにカッコいいものになるとは。「なかったことにしてはならない」 ゲームを終える前に、この一言の持つ意味をしっかり噛み締めてもらいたい。
シュタインズ・ゲート 公式資料集 (ファミ通Xboxの攻略本)

シュタインズ・ゲート 公式資料集 (ファミ通Xboxの攻略本)

疑問の多くはこれで解決するが、わざと推論(もしくは妄想)の余地も残してあるそうなのでまぁ頭を使ってみるのもいいかと。とくに、ハードSF読者な皆さんが一番ツッコミを入れたがるであろう「36バイト圧縮」の問題に関してはかなり意味深なことを書いてあるのだが、せっかくなので読んでのお楽しみということで。もしかして、科学シリーズすべてに関わる伏線なのかしらん。あと、一研究機関であるCERNがあんなことになってるのは… ほら!『天使と悪魔』で散々いじられたから!○役になれるのはそれだけ評価されてる証だって誰かが言ってた!逆に本作でCERNの存在を知った方は、これでも見て本当の姿を知り誤解を解いていただきたい。ラージハドロンコライダー・LHCの解説(どうして必要なのか/どういう仕組みか)をラップでどうぞ。

個人的には「時間もの」なので、『マイナス・ゼロ』的に「電気街へと変化してゆく途中の過去の秋葉原」や、途中で登場する「電気街のまま発展した萌えの無いパラレル秋葉原」の話も少し見たいんだぜ。前者は3本+あと1追加される予定の外伝漫画のうちの一つ、天王寺のおっさんが主人公の『恩讐のブラウニアンモーション』でちょっと出てくると思うので期待して待つ。
>コミッククリア 『Steins;Gate 恩讐のブラウニアンモーション』
>http://www.famitsu.com/comic_clear/se_sg/


あとは安定して動作してもらえるとお勧めしやすくなるんだが。自分はGeforceで3Dゲーム用マシンを組んだのでストーリー中にフリーズするような問題はなかったが、なぜかメニューから終了を選んだのに正常終了しなかったりメニュー画面で落ちたりすることがあった。他の人でも相性問題やエラーなどが今も頻発しているらしい。より安定したパッチが出る事を期待。
XBOX360版をやってると、コントローラーが振動するというのがメール着信で非常に一体感を感じて良かった。着信音も無駄に凝ってるので色々変えてみたくなる。某体感型次世代機で出してたら、コントローラーから音も出せる*2からもっとおもしろかったかもしれない。まぁ、『428』同様ユーザー層が被らないか。

こちらの小説版も完結編が冬出るとの事。昔、かのメタに切り込んだノベルゲーの小説版は、あんな情報量のテキストを薄めの一冊に無理矢理超圧縮したためゲル化とかいうレベルじゃなくなっており、ゲームをやった後では「ちょい待てぇい!」という気分になったが、こちらはゲームを中期の川上稔クラスの厚さに濃厚に落とし込んだ上で、「ゲーム中の厨二岡部を一人称のラノベ主人公に置き換える」というのが面白い。そしていくつもゲームと違う点があり、これらがどう流れに変化を持たせてくるか期待大。…そういってる間にラジオ会館が本当に改装という話が出てくるとは思わなかった。
まさか、俺たちがいる世界線は、まだ境界面ではないということなのか...??!!


おまけに続きます。
(ちゃあしう)

*1:もちろんそこには話のお約束のための都合もある

*2:レッドスティール」で携帯電話が鳴った時はマジで感動を覚えたクチ。リロード音もリモコンから出るのが好きだった。

「ずんだ文学」、文学フリマまたまた参加!

...もう本ブログももはや消えかけといった感じですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか
(まあ、書く人間がいないという根本的な問題が解決しないもんだから。wiki同様。)
せっかくなのでこれまで同様、「ずんだ文学」の文学フリマ参加をちょっと宣伝しておきます。
詳細はこちら、合同会誌公式ブログ「写像する生肉」でどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/mapping/20101201
先の第一回創元SF短編賞を受賞された松崎有理先生へのインタビューほか、
同大賞に編集者達が送った作品など内容満載でお送りしております。
12月5日、スペースはO-01です。機会がありましたらぜひどうぞ。

シャトル・フィクションズ 第四回 スペース・レスキュー119 「亜宇宙漂流」「SF/スターフライト・ワン」

スペースシャトルになぜか人命救助が任されることもある。スペースシャトルの登場は(実際にはちっともそうなっていないが)宇宙旅行の可能性を一部に掲示し、実際にNASAではカーゴベイを大量輸送用に改造したバリエーションを検討していたとされる。自分も昔の学研の図鑑「宇宙ロケット」でこいつが月往還船にドッキングしているイラストを見たことがある。
>Space Future - The Future of Space Tourism
>http://www.spacefuture.com/archive/the_future_of_space_tourism.shtml
某氏なら「あんな成功率の宇宙船で観光なんぞ寒気がする」と毒を吐きそうだが、昔の話ですよ昔の話。
何はともあれ、シャトルの次には、スペースプレーンと呼ばれる「通常の空港から旅立ち、軌道まで上がって宇宙ステーションなどに人員を輸送、普通の空港に降りる」宇宙機が建造されると予想されていたので、これにより真の宇宙時代がくるものと目されていた*1。SF作品においては宇宙旅行でトラブル発生何ぞは日常茶飯事だが、シャトルの登場がそれを「近未来サスペンス」という新しい形に持っていくと予想されたのは想像に難くない。今回はそんな作品を紹介する。

*1:このあたりを背景にしてる作品としては、宇宙ステーションを舞台にしたSFミステリである三雲岳斗『M.G.H.』などがある。

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シャトル・フィクションズ 第三回 ディザスターVSシャトル 「THE DIG」「ヘルメス 落ちてくる地獄」

いろいろやっていたらほったらかしにしてしまった。申し訳ない。
フィクションの中のシャトルを紹介する企画の第3回はディザスター特集。宇宙からの危機と言えば宇宙人と隕石がツートップで、ガンマ線バーストブラックホールはまだまだメジャーじゃない(だから何だ)だが、弱点を攻撃すればいい宇宙人と違って隕石はなかなか骨の折れる相手である。ニーヴン&パーネルの小説『悪魔のハンマー』ではアポロ&ソユーズミッションで彗星の観測を行ったが阻止は行わず、地上に降りた飛行士たちが文明再建のために奮闘する羽目になる。一方ショーン・コネリー主演の(トホホで有名な)映画『メテオ』では米ソが互いの核攻撃衛星で隕石を狙う作戦に出ていたが、シャトルの時代になると「シャトルならすぐ準備できて当然」と言わんばかりに隕石・彗星破壊任務が与えられるようになる。

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